目次
方国珍と張士誠――元末江浙地方における招撫と叛逆の諸相―― 山崎 岳
送還と宗藩――明人華重慶送還をめぐって―― 荷見守義
明代における潮州の海防と沿海地域の社会
――泉・漳・潮州における海上勢力の構造およびその影響―― 陳 春声(石野一晴訳)
明朝の対外政策と両広社会 井上 徹
文書遺珍――清代前期日中長崎貿易に関する若干の史実について―― 范 金民(石野一晴訳)
境界を越える人々――近世琉薩交流の一側面―― 渡辺美季
洪武・永楽期の明朝と東アジア海域
――『皇明祖訓』不征諸国の条文との関連をめぐって―― 川越泰博
清代中期の国際交易と海防――信牌問題と南洋海禁案から―― 岩井茂樹
アヘン戦争前の広州貿易システムにおける寧波商人
――葉名档案における寧波商人関連文書から―― 劉 志偉(阿部由美子訳)
民国初期の湘湖の利水をめぐる自治問題
――韓強士の日本滞在と「湘湖改造計画書」を中心に―― 銭 杭(白井 順訳)
十九世紀慶尚道沿岸における「朝倭未弁船」接近と水軍営鎮等の対応
――『東萊府啓録』にみる哲宗即位年(一八四九)の事例分析―― 六反田豊
平戸を中心とする華人ネットワーク 荒野泰典
内容説明
【編者のことば】
本書は、近世の東アジア海域で展開した多様な国際交流に対して陸域の政治権力がどのように対応したのかを検討する。海域世界の歴史から、「ひらかれた海」(1250~1350)、「せめぎあう海」(1500~1600)、「すみわける海」(1700~1800)の三期をとりあげた場合(「寧波プロジェクト」総括班)、海域の動向と陸域の政治権力の対応との間には、それぞれの時期の特徴がうかがわれる。「ひらかれた海」の時代、東アジア海域の貿易が順調に成長した一方で、ユーラシア大陸における民族対立の激化に強く影響を受けた政治権力の関心は陸域に傾いたが、「倭冦的状況」と呼ばれる混沌とした状況が出現した「せめぎあう海」の時代には、海防体制が陸域の国家の重要課題とされた。続く「すみわける海」の時代では、「倭冦的状況」の終熄により国際関係上の安定がもたらされ、中国、日本、沖縄、朝鮮など諸地域の政治権力は海域よりも陸域に足場を置いた国家秩序の構築にこそ力を注ぐようになった。海域と陸域の双方の動向に注目することにより、海域世界で創り上げられた伝統の総体を解明できるものと考える。