目次
凡例
解題『孫子』の成立と魏武註
始計第一
作戦第二
謀攻第三
軍形第四
兵勢第五
虚実第六
軍争第七
九変第八
行軍第九
地形第十
九地第十一
火攻第十二
用間第十三
内容説明
【凡例】(抜粋)
・本書は、京都大学附属図書館清家文庫蔵、永禄三(一五六〇)年十月五日唐本書写清原家本『魏武帝註孫子』(以下、清家本)を底本とする。
・清家本は書写資料であるため、多くの異体字や書写体による表記がみられる。翻字に際しては、おどり字は当該の文字に改め、これらの細かな文字の異同を反映せずに、正字で統一した場合がある。また、清家本には、訓点のほかに多くの書き入れがあるが、本書の目的上、訓点および書き入れについては翻字していない。これらについては底本を参照されたい。
・現在に伝わる『孫子』の版本については大きく三つの系統に分かれる、一つは『武経七書』を底本とする、孫星衍の「平津館叢書」本である。一つは吉天保輯『十家孫子会理』を底本とする「十家注本」である。これをもとにして近人の楊丙安の『十一家注孫子校理』(『新編諸子集成』第一輯、中華書局、一九九九年)が排印本として刊行されている。そして、これらとは別に我が国仙台藩桜田景迪が嘉永五(一六二八)年刊の『古文孫子』がある。また、肥前蓮池藩の岡白駒の校訂による『魏武註孫子』がある。清家本は書写資料であるため、刊本との相違を確認する必要を鑑み、これら諸本を参照した。諸本により文字を改めた場合には、清家本の文字を( )、改めた文字を〔 〕により表した。
・本書は、かかる操作を経た上で、句読点を施した原文を掲げ、訓読を行い、書き下し文に( )で囲まれた漢数字で示した補注を附した後、現代語に翻訳した。現代語訳は、日本語として流麗であることよりも、訓読に合わせた現代語であることに務めた。訳注において、本文または魏武注を引用する際には、「 」と示した。本文・魏武注にある一字あるいは熟語を引用する際には、「 」をつけない形で示した。
【解題より】
『孫子』の成立過程の解明に決定的な役割を果たした「銀雀山漢簡」は、現行の『孫子』十三篇の中 核となっている孫武の著述に、「擒龐涓」「見威王(仮題)」「威王問」「陳忌問塁」などの孫臏の著述を加えた、孫氏一派の共通テキストの地域的な異本である「斉孫子」と考えられる。曹操は、「斉孫子」などの孫氏一派の共通テキストから、本来孫武のものと考える十三篇を抜き出して定本をつくった訳ではない。「銀雀山漢簡」の流れを汲むテキストをも含みながらも、ほぼ現行の『孫子』十三篇と同じ文字数よりなる『孫子』の複数のテキストを校勘しながら、定本を作成していった。その際、曹操は、『孫子』の文章をより抽象化して、その含意を深め、応用の効くように改めており、『孫子』の思想性は曹操の校勘によって高まったと考えてよい。