目次
はじめに
凡例
『朱子語類』訳注
記録者・門人一覧/索引(語彙)
内容説明
【はじめに】(『朱子語類訳注』巻百十三~百十六より)
本書は、『朱子語類』巻一一三~巻一一六の訳注である。『朱子語類』(以下『語類』と略称)は、東アジアの人々の思想に大きな影響を与えた朱子学の祖・朱熹(1130~1200年)の発言を、門人たちが当時の所謂「白話」で記録した語録を、内容ごとに分類したもので、全一四○巻に及ぶ。本書に収める巻一一三以下(巻一二一まで)は「訓門人」という表題を持ち、『語類』の中では些か異彩を放つ部分である。即ち、「訓門人」は、議論の内容によって分類された他の巻とは異なり、門人たちに対する朱熹の個別の訓戒という観点から集められた部分で、議論の内容そのものは多岐にわたるが、あくまでもそれらの議論を通して朱熹が門人それぞれの個性や欠点に即して語った言葉が集められている。そのため、「訓門人」は、朱熹と門人たちとの日常的なやりとりを最も生き生きと伝えると同時に、師としての朱熹その人の為人をも十分に髣髴とさせるものである。また、その話題の多様さ故、「訓門人」は『語類』一四○巻の縮図とでもいうべき部分となっている。
今回本書を刊行するに当たっては、以下のような方針で既発表の訳稿に大幅に手を加えた。
一、上述の通り「訓門人」は『語類』の中でもひときわ朱熹と門人たちとの対話の臨場感に富む部分であるため、現代日本語によって再現される彼らの会話も、その議論の内容もさることながら、朱熹の調・語気など会話全体の雰囲気こそが重要な要素となる。そのため、訳文の語調・文体にも統一感が求められるという判断から、研究会の成果を踏まえて、訳文は全て垣内が書き改めた。
二、伝統的な訳注の形式を踏襲せず、訳文を冒頭に掲げたのは、訳文だけを読んで「訓門人」を玩味できることを目指したためである。原文を横目でにらみつつ、注釈を一々参照しなくても、訳文のみを読み通せるようにしたいというのが本書の目指したところである。そのため、煩瑣ではあるが、引用された典拠のある言葉については、必要に応じて現代語訳を補った。
三、『語類』の一字検索が可能になったことを最大限利用すべく、語彙の注釈には極力『語類』の中の他の用例を挙げることに努めた。同様に、別の箇所に見える同一の話題についての発言や、同一場面の別記録など、参照すべき箇所をできるだけ示した。
「訓門人」を通して朱子学に出会ったならば、おそらく朱子学のイメージは違ったものになるであろう。「訓門人」を通してしか近づけない朱子学の理解の仕方もあるのではないか。かつてこの「訓門人」を偏愛した朱子学者たちがいた。江戸時代の所謂崎門(山崎闇斎門下)の面々である。彼らの朱子学が特殊であったとしても、彼らの「訓門人」の読み方は、今日の朱子学研究では見過ごされてしまっている何かを気づかせてくれるかもしれない。