目次
『朱子語類』 訳注 巻七 学一 小学/巻十二 学六 持守/巻十三 学七 力行
記録者・門人一覧/索引(固有名詞・語彙)
内容説明
【はじめに】より
本書は、『朱子語類』巻七・十二・十三の訳注である。『朱子語類』(全一四○巻)は、東アジアの人々の思想に絶大な影響を与えた朱子学の祖・朱熹(一一三○~一二○○年)の発言を門人たちが記録した語録を、内容ごとに分類整理したものである。本書に収める巻七は「小学」、巻十二は「持守」、巻十三は「力行」と、それぞれ内容に基づいた表題がつけられている。
巻七「小学」は、大人のための「大学」に対して、子供のための教育を主に論じたものである。朱熹は、
「小学」から「大学」へという古(いにしえ)の教育カリキュラムを理想と考えていたが、朱熹の時代にはすでに「小学」の課程はなく、大人になってから学び始める者がいかに「小学」の欠如を補うかが重要な課題となっていた。朱熹は「小学」の欠を補うものとして、「敬」という修養法を提示している。
巻十二の「持守」とは、人がその主体性の根拠となる本来の良き心」をいかに「持ち守る」か、即ち「心」をいかに保持するかを論じたものである。『孟子』に「学問の道は他なし、その放心を求めるのみ」(告子上)とあるように、朱熹にとっても学問修養の最優先事項は、この「心」を常にあるべきところにあらしめることであった。そして、「心」を保持するための具体的な方法として朱熹が強調するのが、やはり「敬」という修養法なのであった。「敬」(「居敬」、「持敬」ともいう)は、「格物窮理」と並んで朱熹の工夫論(学問修養、実践論)の要をなす方法である。「小学」を経ずに大人になってしまった後で学問に志す者は、「敬」を実践しつつ「大学」の学問である「格物窮理」を行なわなければならないのであった。朱熹は、「心」をめぐる修養法を模索する中で、北宋の程頤の提唱した「敬」の価値を再認識する。朱熹にとって「敬」は、「心」という極めて扱いにくいものに対処するための画期的な方法なのであり、本巻の中でも「敬」の方法としての具体性や有効性が繰り返し強調されている。
巻十三の「力行」とは、「力(つと)め行なう」こと、即ち現実生活の中でいかに道徳的実践に努めるか、いかに人として正しく振る舞うかを論じたもので、その心構えから、人倫関係、科挙受験、出処進退等の具体的な問題への対処の仕方に至るまで、話題は多岐に及ぶ。
以上、本書に収めた各巻はいずれも、朱熹の思想における学問修養論や実践論を読み解く上で重要な話題を多く含むと同時に、朱熹たちにとっての学問修養が、いかに現実社会の中における日常的な生き方の問題と一体となっているかを物語っているものと言えよう。