目次
序
第一部 明代に何が起こったのか
第一期 洪武~天順(1368~1464) 第二期 成化~正徳(1465~1521) 第三期 嘉靖(1522~66)
第二部 『三國志演義』
第一章 「三國」について――なぜこの時代が藝能の題材となるのか――
第二章 三國志物語の變容
第三章 『三國志演義』の成立と展開――嘉靖本と葉逢春本を手がかりに――
第三部 『水滸傳』
序 章
第一章 『水滸傳』成立考――内容面からのアプローチ――
第二章 『水滸傳』成立考――語彙とテクニカルタームからのアプローチ――(本章は高野陽子との共著)
第三章 『水滸傳』はなぜ刊行されたのか
第四部 『西遊記』と『金瓶梅』
序 章
第一章 『西遊記』成立考 第二章 『金瓶梅』成立と流布の背景
結び あとがき・索 引
内容説明
【本書より】
「四大奇書」とは、『三國志演義』『水滸傳』『西遊記』『金瓶梅』の總稱である。この名稱自體は、?代前期の書坊が販賣促進用につけたキャッチフレーズにすぎまいが、この四篇をもって明代白話小説の代表作、更にいえば中國長篇小説の最高峯と見なすことには、ほとんど異論はないであろう。?代に入ると多數の白話小説が制作されるようになるが、この四篇に比肩しうるものとしては、わずかに『紅樓夢』、あとはかろうじて『儒林外史』をあげうるにとどまろう。また、『金瓶梅』以外の三篇は、演劇・語り物など藝能の世界における最も主要な素材供給源でもある。實際、今日上演されている演劇の中でも、三國・水滸・西遊記關係の演目は非常に大きな比重を占めている。更に諸外國、特に日本に對する影響の大きさにも特筆すべきものがある。……これらの小説が江戸時代の日本文學に與えた影響の大きさであろう。實際、『水滸傳』の受容なくしては讀本の發達はありえなかった。そして、歐米の「小説」概念を受容するにあたって、讀本がその基盤を形作ったとすれば、『水滸傳』は日本の近代文學成立にも大きな影響を及ぼしたことになる。
このように、「四大奇書」は中國文學のなかでも指折りの重要な作品群である。從って過去の研究も多く、その内容も成立史・テキスト研究・人物研究・作者に關する考證など、非常に多岐にわたる。筆者も、もとよりそのすべてに目を通したわけではない。ただ、四篇全體を文學史の中に位置づけようとする研究は必ずしも多くはないのではあるまいか。本書においては、白話が文字化され、白話文學が成立していく過程の中に「四大奇書」を位置づけることを試みてみたい。