ホーム > 近世法実務の研究

近世法実務の研究 全二冊

近世法実務の研究

◎江戸時代の「実務法学」を明らかにする。西欧的法学に引き継がれた伝統法とは何か⁉

著者 神保 文夫
ジャンル 日本史
日本史 > 近世
出版年月日 2021/11/12
ISBN 9784762942365
判型・ページ数 A5・1364ページ
定価 31,900円(本体29,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

〔上〕

序 言
凡 例
第一部 訴訟手続きの視角から見た近世私法史
       ――江戸法と大坂法――

 第一章 江戸幕府出入筋の裁判における本公事・金公事の分化
  一 序   
  二 「本公事」の成立   
  三 「金公事」の成立
    (1)「金公事」の概念
    (2)「金公事」の指標   
  四 結
  補論一 切金弁済制の成立時期
  補論二 切金弁済制の運用
    (1)弁済回数の変化
    (2)切金弁済の実務
  補論三 本公事銘・金公事銘
    (1)明和四年五月二十五日評定所一座評決
    (2)相対済令と公事銘
  補論四 大坂町奉行所の「中抜裁判」

 第二章 近世私法史における「大坂法」の意義
       ――金銀出入に関する大坂町奉行所の裁判管轄――
  一 序   
  二 享保七年「国分け」令   
  三 京都大坂町奉行支配違金銀出入
  四 遠国金銀出入             
  五 結

 第三章 明和三年・四年の大坂町奉行所金銀出入取捌法改正
  一 序   
  二 明和三年の改正――遠国金銀出入の裁判管轄――
  三 明和四年の改正――金銀出入の取捌手続――   
  四 結

 第四章 近世民事裁判における判例法の形成
       ――「取捌題号」に見る大坂町奉行所の身代限法――
  一 序   
  二 史 料   
  三 身代限の判例法
    (1)切 金
    (2)質 抜 
  四 結

 第五章 近世私法体系の転換――天保十四年の金公事改革――
  一 序   
  二 天保十四年の金公事改革
    (1)立法過程
    (2)改革法の内容
  三 天保改革の「挫折」と金公事法制
    (1)相対済令の発布
    (2)金公事法制復古案  
  四 結

 第六章 大坂町奉行所民事裁判法の性格――西欧近代法受容の前提――
  一 序                
  二 大坂町奉行所金銀出入取捌法の展開
    (1)享保五年改正以前
    (2)享保五年の改正
    (3)明和三年・四年の改正
  三 大坂町奉行所金銀出入取捌法の性格
    (1)司法的性格
    (2)商法的性格
    (3)共通法的性格
  四 結

〔下〕

第二部 江戸幕府の法実務

 第一章 評定所留役小考――職階制成立までの官制史――
  一 序  
  二 創置前後  
  三 職階制の成立  
  四 寺社奉行所への留役派遣  
  五 結

 第二章 江戸時代前期の判例集
  一 「御仕置部類」系評定所判例集
  二 宝永期における幕府判例集編纂の一班
       ――「旧憲類書」について――
  三 「御仕置裁許帳」の一異本――「刑罰集抜萃」について――
  史料「御裁許留」上中下

 第三章 敵討・妻敵討の法実務
  一 「敵討言上帳書抜」  
  二 北町奉行所「敵討帳」の一写本  
  三 妻敵討に関する史料二件

 第四章 司法統計
  一 序          
  二 評定所公事訴訟数取調方――附 卯年・寅年の公事訴訟数――
  三 評定所公事訴訟数――享保十四年・同十五年――
  四 三奉行掛処刑者数・入牢者数――明和元年・二年・四年――
  五 三奉行掛処刑者数・入牢者数――寛政三年・四年――
  六 三奉行掛処刑者数・入牢者数――慶応二年――
  七 三奉行掛処刑者数・入牢者数――慶応二年十二月――
  八 箱館奉行所処刑者数・入牢者数――慶応元年――
  九 奈良奉行所処刑者数・入牢者数――慶応二年――
  十 駿府代官役所入牢者数――慶応元年――

 附録一 幕府法曹と法の創造――江戸時代の法実務と実務法学――
  一 江戸幕府の法曹
  二 法実務の実際
  三 実務法学の形成

 附録二 江戸の法曹・評定所留役

 附録三 江戸幕府の裁判実務
  一 書面主義――出入筋を中心に 
  二 先例主義――吟味筋を中心に  
  三 現実主義
          
 附録四 法を笑う――近世法律文書の戯文――
  序  
  一 証文書式の戯文       
  二 訴訟書類の戯文 
        
あとがき
索 引

このページのトップへ

内容説明

【序言より】(抜粋)
 日本の近代法体系は西ヨーロッパ近代の法制度・法理論を継受することによって形成されたから、その点で前近代の伝統法との断絶は明らかであるように見える、しかるに現実には、西欧近代法を継受した後も、伝統法的要素がすべて消滅したわけでなく、むしろ多くの局面で残存し、継受された西欧的法制度・法理論とそれらが混淆しあるいは乖離しつつ日本の近代法史は展開したのであり、伝統法的要素は概して近代法の十全な発達を妨げるものであったというのが大方の理解であったかと思われる。しかし、単に日本近代法における前近代的要素の残存という観点からのアプローチでは、あるいはまた不平等条約の改正という外交課題に対処するため継受が急がれたことに理由を求めるだけでは、明治以後の日本においてあれほど早く西欧近代法の体系的な受容が可能であったことの説明が十分にはつかないであろう。むしろ西欧近代法的なものとは明確に断絶しているように見られている近世とくに江戸時代後期の伝統法の中に、実は西欧近代法・近代法学の受容を容易にするものが形成されていたと考えることができるのではないか。法制度や法理論の面においては江戸時代の伝統法と継受した西欧近代法は断絶しているとしても、法実務すなわち法運用の経験的技術の蓄積は、伝統的なものが少なからず明治以降も生き続けたし、また江戸時代には西欧近代法的な理論的法律学――抽象的法概念による分析・体系化を重視する大陸法的な法律学――こそ発達することがなかったものの、それらの実務を支える法的処理の技術ないし論理の体系、いわば「実務法学」と称すべきものがそれなりに発達していた。これらの法文化的基盤があったからこそ、西欧近代法の急速な受容が可能であったといえるのではないか。本書はこのような関心から、江戸幕府の法実務のあり方に注目し、その具体的内容と特質の一端を可能な限り史料に即して明らかにしようとするものである。第一部では、法制の性格に顕著な違いがあった江戸法と大坂法の対抗関係を軸として、訴訟手続の視角から近世私法の発達史を再構成し、近代法受容の前提となった江戸時代の伝統法の意義を考える。第二部では、幕府の裁判・法実務を担った法曹的吏員の中でも特に重要な存在というべき評定所留役の活動を中心に、幕府法実務の実態を具体的に窺うべき史料、伝存するものが少ないとされる江戸時代前期の判例集や散佚した司法統計に関する史料などを提示しつつ、江戸幕府の裁判・法実務のあり方を考察する。
 もとより本書は、日本が西欧近代法の急速な継受なしいその受容を可能にしたことの理由を伝統法的基盤のみに求めることを主張しようとするものではない。西欧近代法の継受にはさまざまな歴史的背景があり、複雑な条件が絡み合って展開したのであったことは、あらためて述べるまでもないであろう。本書は、そのような多くの歴史的条件の一つとして、江戸時代の伝統法文化が果たした役割について、江戸幕府の法実務という限られた視角から考察を加えようとするに過ぎない。しかし、その役割は決して小さなものではなかったと考えている。本論の主旨を理解していただく一助ともすべく、公開講演会の記録や主に外国人研究者に向けて準備したシンポジウム報告、また裁判や法実務の現実に対して江戸時代の人々が抱いていた法意識ないし法感情の一側面について考察した論考などを、附録として加えた。

A STUDY OF LEGAL PRACTICE IN EARLY MODERN JAPAN

 (In Two Volumes) by JIMBO Fumio

Kyuko-shoin Tokyo 2021

 

このページのトップへ