目次
第一章 前九年合戦における源頼義の資格
第二章 安倍頼時追討の真相――永承六年~天喜五年の状況復元――
第三章 前九年合戦の交戦期間への疑念――前九年合戦は一二年間か――
第四章 『今昔』前九年話・『陸奥話記』の高階経重問題――史料的価値の逆転――
第五章 康平七年『降虜移遣太政官符』から窺う前九年合戦の実像
第六章 康平七年『頼義奏状』『義家奏状』の虚実
――『陸奥話記』形成期における源氏寄りプロパガンダの存在――
『陸奥話記』の成立論
第七章 『陸奥話記』前半部の後次性
――『扶桑略記』から照射する『陸奥話記』のいびつさ――
第八章 『陸奥話記』前半部の形成――黄海合戦譚の重層構造を手がかりにして――
第九章 前九年合戦の〈一二年一体化〉――『扶桑略記』から『陸奥話記』への階梯――
第十章 共通原話からの二方向の分化と収束――〈櫛の歯接合〉論の前提として――
第十一章 『陸奥話記』の成立――〈櫛の歯接合〉論の提示――
『陸奥話記』の表現構造論
第十二章 『陸奥話記』成立の根本三指向
第十三章 『陸奥話記』の歴史叙述化
――《リアリティ演出指向》《整合性付与指向》等による――
第十四章 『陸奥話記』の物語化
――《境界性明瞭化指向》《間隙補塡指向》《衣川以南増幅指向》等による――
総括的な論
第十五章 『陸奥話記』成立の第二次と第三次
――《反源氏指向》から《韜晦最優先指向》へ――
第十六章 『後三年記』成立の第一次と第二次――漢文体から漢文訓読文体へ――
第十七章 前九年合戦の物語と『後三年記』の影響関係
第十八章 『陸奥話記』『後三年記』の成立圏――出羽国問題・経清問題を切り口として――
第十九章 前九年合戦の物語の流動と展開
第二十章 『陸奥話記』は史料として使えるか――指向主義の始動――
付録 『陸奥話記』の〈櫛の歯接合〉論のための三書対照表
初出一覧
あとがき
索引(7種)
図解 『陸奥話記』の動態的重層構造
内容説明
「パズルや推理小説は、その謎が解けてみると、案外簡単に見えるものである。『陸奥話記』の成立事情もそうで、なんのことはない、『扶桑略記』と『今昔』前九年話(の原話)を接合し、そこにオリジナルの部分を少々付加しただけのものだったのである。」(第十一章より) ▶「すべての言説に主観や偏向が混じる怖さを知らなければ、その上に立脚した歴史像など砂上の楼閣に過ぎない。」(第二十章より) ▶「源氏が一二年間かけて安倍氏を追討したとする前九年合戦観も、『平家物語』等に先立つ初期軍記であるがゆえに未熟であるという『陸奥話記』観も、根本的に改められなければならない。」(「はしがき」より)
本書は、11世紀後半から12世紀初頭の約60年間に及ぶ『陸奥話記』の形成過程を初めて明らかにしたものである。この間、時代相は親源氏から反源氏へと移行し、それぞれの空気を反映して『扶桑略記』や『今昔物語集』前九年話(の原話)が成立した。本書ではそれらの史実性・虚構性の再検証を通じて、『陸奥話記』がその両書をあたかも二本の櫛を向かい合わせるように接合しつつ成立したことを解明する。同時に、親源氏性・反源氏性の双方を内包する玉虫色の物語になったこと、また、それこそがこの物語の表現主体の狙いどころであり、成立圏が平泉藤原氏であることを隠蔽する意図に基づく操作であったこと等を明らかにする。そして、この物語を“巧妙な世論誘導の物語”であると読み解く。このような『陸奥話記』の動態的重層構造(七層に及ぶ)の分析結果が、巻末の折り込み図版一枚に集約されている。
なお、『後三年記』の成立過程および成立年次について保留になっていた課題も、本書において解決する。