目次
はしがき/凡例
第一章 『後三年記』から『後三年合戦絵詞』へ
第二章 『後三年記』の文体と表現意識
第三章 『後三年記』の表現連鎖
第四章 『後三年記』貞和本と承安本の関係
第五章 『後三年記』の院政期的位相
第六章 『後三年記』の語彙・語法の古相
第七章 『後三年記』の敬語の時代相
第八章 『後三年記』の成立圏――陸奥国成立の可能性をさぐる――
第九章 『後三年記』の成立年次
第十章 『後三年記』と『中尊寺供養願文』との共通位相
第十一章 『後三年記』の源平
第十二章 『後三年記』は史料として使えるか――メタ歴史学の構築をめざして――
初出一覧/あとがき/索引
内容説明
「従来、貞和三年(1347)とされてきた『後三年記』の成立年次を天治元年(1124)に引き上げる――これが本書の主旨である。」(「はしがき」より)
通説では、『後三年記』は貞和三年の成立であるとされてきた。それは、同年制作の『後三年合戦絵詞』から詞書の部分のみを抜き出して、物語『後三年記』が成立したとの考えに基づいている。しかし、本書では、その文体・表現・語法等を多角的に検証した結果、『後三年記』は院政初期に、絵巻とは関わりなく独立した物語として成立したものとの結論を導き出している。
しかも、『後三年記』に使用されている「当国」の表現がいずれも陸奥国を指していることや、清衡の立場を擁護する内容などから、この物語は藤原清衡のもとで成立した可能性が高いとする。これらのことから、中尊寺金色堂の落慶供養が行われた天治元年ごろに『後三年記』が成立したと絞り込む。
この説は『後三年記』の成立年次を通説より200年以上押し上げるもので、これによって『後三年記』 がある種の史料的価値を帯びることになり、『保元物語』『平治物語』『平家物語』に先行する軍記として文 学史上の意義を新たに得ることにもなる。
研究者だけでなく一般の愛好家の読解にも応えるべく、各章ごとに〔本章の要旨〕と論述内容の〔図解〕をほどこし、重要な論述部分をゴシック体で示すなどの配慮に満ちた書でもある。