目次
第一部 東アジアの資料学研究
中国簡牘の文書・記録と情報伝達 ……………………………………………………………… 藤田勝久
秦簡牘研究の新段階 ……………………………………………………………… 陳 偉(廣瀬薫雄訳)
楚簡・秦簡研究と日中共同研究――コメントに代えて―― ………………………………… 工藤元男
韓国の木簡研究の現況――東アジア資料学の可能性―― ……………………… 金 慶 浩(河英美訳)
破莂・別莂考――長沙呉簡を例として―― …………………………………………………… 關尾史郎
奄美諸島史料と文書の集合態・複合態 ………………………………………………………… 石上英一
第二部 出土資料と情報伝達、地域社会
張家山漢簡『二年律令』の出土位置と編連
――書写過程の復元を兼ねて―― ………………………………………… 金 秉 駿(小宮秀陵訳)
漢代郵駅システムにおける駅の接待方式
――懸泉漢簡の二つの残冊書を中心とする考察―― …………………… 張 俊 民(廣瀬薫雄訳)
後漢『乙瑛碑』における卒史の増置に見える政務処理について
――「請」・「須報」・「可許」・「書到言」を中心に―― ……………… 侯 旭 東(佐々木正治訳)
漢晉時代の倉廩図にみえる糧倉と簡牘 ……………………………………… 馬 怡(佐々木正治訳)
漢代北方の地域社会と交通――城郭と墓葬から―― ………………………………………… 上野祥史
漢代における鉄製農具の生産と流通
――広漢太守沈子琚緜竹江堰碑から見る治水システムをもとに―― ……………… 佐々木正治
あとがき/執筆者一覧
内容説明
【本書より】(抜粋)
国家と社会の特質を考える基礎として、歴史学の基本となるのは文献史料である。中国古代でいえば、正史をはじめとする多くの文献がある。この文献は、歴代の注釈や、内的な史料批判にもとづいて研究されてきた。近年では、文献とあわせて出土資料を補助とする研究が主体となっている。しかし二十世紀の七〇年代から二十一世紀にかけて中国の出土資料が急増すると、個別研究の進展だけではなく、出土資料の性格を総合的に位置づける必要性が生じてきた。この意味で、総合的な「出土資料学」が求められている。こうした中国の出土資料学をふまえたうえで、つぎには韓国、日本古代をふくめて、文献とあわせた「資料学」の構築が課題となろう。愛媛大学の研究プロジェクトでは、ささやかながら「東アジアの出土資料と情報伝達」をテーマとする国際共同研究を進めてきた。本書は、編著『古代東アジアの情報伝達』(二〇〇八年)、『東アジア出土資料と情報伝達』(二〇一一年)につづく三冊目の成果である。そのキーワードは、「情報の伝達(発信と受容)」である。その意味は、出土資料の形態や書式による分析を一歩進めて、国家と社会のなかで情報を伝達する機能を設定し、実務の運営をふくめた文字資料の体系化をはかろうとするものである。これは制度史として文書行政を理解するハード面に加えて、文字資料の伝達と情報処理の用法や、交通システムのなかで理解しようとするソフト面の試みであり、機能論の展開にあたる。……中国や韓国、日本古代の出土資料が豊富になった今日では、総合的な「資料学」の構築はきわめて困難な課題であり、その範囲とするところも広い。本書では、これを一つの「資料学」とするのではなく、情報伝達・情報処理という限られた視点から、さまざまな立場と解釈が異なる考えをそのまま提示している。こうした共同研究が、東アジア「資料学」の構築に対して、少しでも貢献するところがあれば幸いである。