内容説明
【本書】より
『史記』史料の研究には、三つの段階がある。その一つは、中国古代の文献と出土資料(簡牘、帛書)に関連する資料を探り、素材別に『史記』の編集を考察することである。これは、いわば『史記』の種本にあ
たる資料との比較であり、『史記戦国史料の研究』(一九九七年)の方法である。その二は、司馬遷が利用した系統だけではなく、広く漢代の文字資料(文書、書籍、記録など)のあり方を理解し、そのなかで相対的に『史記』の素材と編集を位置づけることである。それは『中国古代国家と社会システム――長江流域出土資料の研究』(二〇〇九年)のように、簡牘の機能と情報伝達の考察が基礎となっている。これらは文献と出土資料による方法であるが、ここでは司馬遷が竹簡や木簡、帛書の素材を編集した原形として、『史記』の成立と構造を明らかにしようとしている。その三は、考古遺跡とフィールド調査による情報を取り入れ、『史記』の叙述と史実を考えることである。これは拙稿「司馬遷の取材と旅行」(二〇〇〇年)や、『司馬遷の旅』(二〇〇三年)で試みた方法である。
本書は、このような三つの段階をへて、あらためて『史記』戦国列伝の編集と史実を考察したものである。
【内容目次】
序 章 戦国、秦代出土史料と 『史記』
一 司馬遷が利用した紀年・系譜
二 司馬遷が利用しなかった出土資料
三 『史記』の記事資料と説話
第一章 『史記』 諸子列伝の素材と人物像
一 『史記』諸子列伝の素材
二 伍子胥列伝と出土資料
三 諸子列伝の紀年と君主名
四 諸子列伝の説話と史実
第二章 『史記』 穣侯列伝の編集方法
一 穣侯列伝の構成と素材
二 穣侯列伝の編集方法
三 白起列伝の構成と編集
四 穣侯と白起の事績
第三章 『史記』 蘇秦・張儀列伝と史実――戦国中期の合従と連衡
一 『史記』にみえる蘇秦と張儀の説話
二 張儀列伝の構成と編集
三 蘇秦列伝の構成と編集
四 戦国中期の合縦と連衡
第四章 『史記』 戦国四君列伝の史実
一 春申君列伝の構成と編集
二 春申君列伝の紀年と記事資料
三 孟嘗君列伝の構成と編集
四 平原君、魏公子列伝の構成
五 戦国四君列伝の事績と史実
終 章 『史記』 の歴史叙述と戦国史
一 『史記』戦国史料の研究
二 『史記』の取材とフィールド調査
三 『史記』と戦国史の復元
1郡県制と封邑
2戦国社会と秦帝国の構造
あとがき/『史記』篇目、『史記』列伝の素材/戦国略年表
/索引(文献と出土資料、事項)