目次
第一章 亡妻哀傷文学の系譜
一、悼亡詩〔明以前の悼亡詩/明清の悼亡詩とその特徴〕
二、亡妻哀悼散文〔明以前の亡妻哀悼文/明清の亡妻哀悼文〕
三、憶語体〔清の憶語/民国の憶語ブーム〕
第二章 明清における亡妻哀悼文の展開――亡妻墓誌銘から亡妻行状へ
一、唐宋元における亡妻哀悼散文
二、亡妻行状の誕生
三、明清における亡妻行状の隆盛
〔亡妻墓誌銘と亡妻行状/亡妾哀悼散文への拡がり/女性行状に反対する者たち/抒情と亡妻
哀悼/拡大する亡妻哀悼〕
四、なぜ亡妻哀悼散文が明清に拡まったのか
〔明清士大夫の夫婦感情と悼亡への共感/家庭内の些事を書くことへの肯定〕
第三章 明清における亡妾哀悼文
一、納妾・蓄婢に対する妻と士大夫の意識
〔正妻にとっての納妾・蓄婢/士大夫にとっての納妾・蓄婢〕
二、亡妾哀悼文の特徴と歴史的変遷〔亡妾哀悼文の文体/明清の亡妾哀悼文の特徴〕
三、亡妾哀悼文が描く妾婢
〔納妾の経緯/納妾をめぐる女たちの本音/媵婢と女主人/暴力と虐待/妾婢の葬地/隠遁生
活と妾婢〕
四、明清士大夫の心性と妾婢
〔明清における士大夫階層の妾の社会的地位/亡妾哀悼文執筆の士大夫の心性〕
第四章 明中期における亡妻哀悼の心性――李開先『悼亡同情集』を中心に
一、李開先と悼亡〔李開先と悼亡作品/李開先の喪偶〕
二、李開先の悼亡詩と悼亡曲子〔李開先の悼亡詩/李開先の悼亡曲子〕
三、李開先編『悼亡同情集』にみる亡妻哀悼の心性
〔『悼亡同情集』の収録作品と作者/『悼亡同情集』の編纂意図/『悼亡同情集』の亡妻哀悼文〕
四、明における夫婦像
五、亡妻への悼念の情の共有
第五章 明の遺民と悼亡詩――艱難の中の夫と妻
一、王夫之の悼亡詩〔遺民王夫之/元配陶氏への悼亡/継妻鄭氏への悼亡〕
二、屈大均の悼亡詩〔遺民屈大均/王華姜との結婚/王華姜への悼亡〕
三、呉嘉紀の悼亡詩〔遺民呉嘉紀/糟糠の妻王睿/王睿への悼亡〕
第六章 清における聘妻への哀悼――舒夢蘭『花仙小志』を例に
一、詞人舒夢蘭 二、二つの『花仙小志』
三、蔡綬「花仙伝」と仙女崇拝 四、悼亡と唱和
五、清代における聘妻の地位
第七章 明清における出嫁の亡女への哀悼――非業の死をめぐって
一、女性に対する暴力 二、嫁ぐ(とつぐ)女(むすめ)と父親
三、蘇洵「自尤詩」 四、王樵「祭女文」
五、駱問礼「章門駱氏行状」 六、袁枚「哭三妹」五十韻
七、出嫁の亡女を哀悼する文体 八、義と情の狭間で
附 論 前近代中国における女性同性愛/女性情誼
一、同性愛をめぐるジェンダー非対称性
〔中国同性愛研究史における女性同性愛の位置づけ/名称にみるジェンダー非対称性〕
二、前近代中国における女性同性愛のエクリチュール
〔後宮の女性同性愛行為/通俗小説と女性同性愛行為/女性同性愛を肯定的に描く作品〕
三、前近代中国における女性情誼のエクリチュール
〔心中事件と女性情誼/女性同性愛に対する嫌悪の芽生え〕
あとがき
初出一覧/人名索引
内容説明
【序章より】
本書の目的は、明清における婦(つま)を悼む哀傷文学がどのように展開したかを考察し、その底流にある明清文人の女性像を示すことにある。なお、ここでいう「婦」とは、既婚女性を指すことばであり、妻のほかに妾、時には侍婢も含む。……
ただ、詩文の中の女性像を探ろうという時、留意しなければならないのは、描写の対象となるのは「亡き婦」だということである。士大夫の文集には、杜甫の「月夜」や「江村」のような一部の例外を除いて、健在である妻の姿を詠じたり描写したりした作は極めて少ない。韻文でも散文でもそれは同じである。前近代の中国文学では、妻妾は亡くなって始めて士大夫の筆に載せられるのだ。明清士大夫は、このことを逆手にとり、亡婦をテーマとする哀傷文学の形式や文体を拡大し、その内容を多様化させた。彼らは、前代と比べて女性への哀傷文学のありようをどのように変えたのか。これが本書の問題とするところである。