目次
序(佐藤 保)
自序
第一編 唐代女性詩人の詩と文学
序 論
第一部 宮女の詩作
第一章 初唐における宮女の詩作――上官昭容と宮廷詩壇――
第一節 景龍年間の応制詩群と上官昭容の詩
第二節 初唐の宮廷詩壇と上官昭容
第二部 妓女・女道士の詩作
第一章 女道士詩人・李冶の誕生
第一節 唐代における女道士詩人・李冶の誕生
第二節 李冶の詩
第二章 営妓詩人・薛濤の詩作――詩にみえる営妓としての薛濤像――
第一節 剣南西川節度使に対して詠われている詩から
第二節 士大夫等に対して詠われている詩から
第三章 魚玄機の詩と詩作――詩作の模倣から詩作への葛藤へ――
第一節 詩作の模倣
第二節 詩作への取り組みと葛藤
第三部 新たなる恋情の詩
第一章 李冶・薛濤・魚玄機と「相思」の詩
――詩にみえる「相思」の語を逐って――
第一節 漢代から唐代に至るまでの「相思」
第二節 唐代における「相思」
第三節 「相思」の用例からみる恋情の詩
結 論
第二編 日本における薛濤詩の受容
第一章 薛濤詩の日本への伝来
第一節 「薛濤図」添書
第二節 薛濤の別集と薛濤詩を収録する總集
第三節 『舶載書目』等から探る薛濤詩の伝来
第二章 日本における薛濤詩の受容の様相
第一節 和刻本にみえる薛濤詩の受容
第二節 日本漢詩にみえる薛濤詩の受容
第三節 和文体の翻訳詩にみえる薛濤詩の受容
第三章 日本で愛好された薛濤の詩
主要参考文献
あとがき
初出一覧
索 引
付表A 唐代女性詩人一覧
付表B 薛濤詩一覧
付表C 薛濤詩を収録する総集の日本への伝来年一覧
内容説明
【自序より】(抜粋)
古く中国においては『女論語』に「歌詞を縦にする莫れ、他の淫語を恐るればなり」と女性が詩歌に親しむことを禁ずるような教えがあった。また、政治の担い手であった士大夫層が文学の担い手であったことから、例えば前漢の班女妻妤のような宮廷の一部の女性と、南朝宋の鮑照の妹の鮑令暉のような文人の妹や娘等を例外として、女性が公然と詩を詠むことはなかった。ところが世界に冠たる大唐帝国と称されるほどに繁栄を極めた唐代になると女性達の活躍が目覚ましくなり、女性詩人も多く輩出した。その唐代における女性詩人とは、初唐から盛唐期までは、前代までと同様に皇后や妃嬪等の宮廷の女性と著名な文人の妹や娘等の名媛と称された女性達であったが、安史の乱を経た中晩唐期には、妓女や女道士の詩人が出現して多くの詩を遺している。本書では、そのなかでも残存詩が比較的多く事跡も明らかな、上官昭容(婉兒)、李冶、薛濤、及び魚玄機の四人の女性詩人の詩と詩作について論述している。
本書は次のような二編から成っている。
第一編 唐代女性詩人の詩と文学
第二編 日本における薛濤詩の受容
第一編の「唐代女性詩人の詩と文学」では、女性詩人達はいつから、何を契機に詩を詠み始めたのか。詩作をどのようにして習得したのか。詩には女性としての固有の表現や主張がみられるのか。彼女達が詩を詠むことによって遺した足跡は何であったのか。このような点について、彼女達が詠出している詩と詩作から考察することによって、唐代女性詩人の詩の文学的な意義について論述している。
第二編の「日本における薛濤詩の受容」は、日本側に視点を置いての論考である。四人の唐代女性詩人のうち日本人にも比較的馴染みが深い薛濤の詩は、いつ日本に伝来して、日本人によってどのように読まれて、どのように愛好されたのか、日本における薛濤の詩の受容の様相について論述している。日本の南画家・小田海僊作の「薛濤図」(一八四六年製作)にある八十文字の添書きは如何なる文献に拠って書き付けられたのかについての考察から始め、次に、薛濤の別集と総集が日本に伝来した時期を『舶載書目』等に拠って考証している。そして、江戸時代後期から明治、大正、昭和にかけて日本人によって薛濤の詩が様々な形で受容された様相を追うと共に、薛濤の詩が日本人に愛好された要因について論証している。