目次
第Ⅰ部 民衆運動と民衆統合
第1章 中国国民党とロシア革命
1 中国国民党の革命思想と社会主義
2 中国の国民革命とロシア革命
3 中国国民政府の経済政策とソ連モデル
第2章 政権成立前夜の武漢労働運動
1 武漢の商工業と労働者階級
(1)武漢商工業の実態調査資料
(2)武漢の労働者構成
2 武漢労働運動の展開過程
(1)前史
(2)組合組織の性格
3 中小ブルジョアジーと小ブルジョア的労働者層との矛盾の調整
――その政策実施過程をめぐって
(1)総工会経済闘争委員会の設置
(2)湖北省労資問題解決臨時委員会・漢口市労資争議仲裁委員会の組織
(3)工商連歓会議の開催から工商紛糾解決委員会の組織まで
(4)「工商連席会議」の開催
第3章 政権成立期の上海郵務工会――1928年10月のストライキを中心に
1 1920年代上海の郵便労働者
(1)郵便労働者の類別と構成
(2)賃金・待遇条件
(3)生活文化水準
2 上海郵務工会の組合運動
(1)指導的理念について
(2)ストライキまでの主な活動
(3)組合の組織と運営
(4)1928年10月のストライキ
(5)運動の指導層
第4章 政権成立期の労働運動と反日運動
1 政権成立期の労働運動
(1)軍の政治部による労働団体設立
(2)国民党左派に近い市党部系の勢力
(3)上海工人総会の成立と失速
(4)上海七大工会の活動、1928年
(5)まとめ
2 1927年の反日運動
3 1928-29年の反日運動
(1)国民党左派系の反日民衆運動
(2)商工業者中心の日本品不買運動
(3)日本品不買運動の実態と効果
第5章 政権成立期の中国国民党――1929年の第3回全国大会を中心に
1 1928-29年の中国――国民党統治が直面した課題
2 第3回全国大会時期の党の路線対立
(1)民衆運動の位置づけ、党・行政機関との関係
(2)政治会議地方分会の存廃問題
3 第3回全国大会時期の党組織
4 第3回全国大会をめぐる政治過程
(1)2期4中全会から2期5中全会まで(1928年2月-8月)
(2)2期5中全会から五院政府成立まで(1928年8月-10月)
(3)五院政府成立から3全大会開催まで(1928年10月-1929年3月)
(4)3全大会の開催(1929年3月)
第6章 政権統治下の中国労働運動――全国郵務総工会の結成と護郵運動
1 郵便労働者の全国組織
(1)全国組織の結成過程
(2)全国組織結成過程の特徴
2 「護郵運動」
(1)運動の経過
(2)運動の性格
第7章 上海労働統計(1918-1939)について
1 史料の紹介
(1)「罷工停業」統計
(2)「労資糾紛」統計
(3)「工資」統計
(4)「生活費」統計
2 上海労働統計の分析・試論
(1)争議の年次推移と景気変動
(2)争議処理の年次推移と労資争議処理法の変遷
第Ⅱ部 財政と財政官僚
第1章 近現代中国の財政史
1 明・清時代財政史研究からの問題提起
2 近代国民国家を志向した財政政策史の研究
3 人民共和国財政史の研究
【文献目録】
第2章 国民政府の財政と関税収入
1 関税収支の動向
(1)総収入
(2)総支出
2 政府財政の推移と関税収入
(1)歳入
(2)歳出
3 財政政策の展開過程と関税収入
(1)宋子文財政の初期の展開
(2)宋子文緊縮財政の出現とその挫折
(3)孔祥煕積極財政の新たな展開
第3章 財政機構と財政官僚
1 財政機構
2 財政官僚
第4章 政府成立期の財政次長張寿鏞
1 北京政府期の地方財政と張寿鏞
2 張寿鏞の財政思想
第5章 国定税則委員会と張福運
1 国定税則委員会の設立と上海での物価調査
2 張福運らの財政思想
3 国定税則委員会の活動
(1)1933年輸入関税の編成
(2)関税立法原則の制定、1946-1947年
(3)1948年関税をめぐる対立
第6章 戦時中国の関税貿易問題
1 国民政府統治地域の関税貿易問題
2 日本軍占領地域の関税問題
第7章 戦後中国の関税貿易政策
1 政策理念をめぐる対立
2 国内産業の利害関係
3 関税立法原則の決定過程 1946.6-1947.4
4 48年関税の決定過程 1948.2-1948.8
第Ⅲ部 経済政策
第1章 統制と開放をめぐる経済史
1 戦時統制経済への傾斜
(1)国民党政権の経済建設
(2)戦時経済の諸相
2 戦後の経済開放とその挫折
(1)戦後の内外環境と経済構想
(2)開放政策の挫折と統制経済への回帰
3 共産党政権の統制計画経済
(1)新民主主義経済からソ連型計画経済へ
(2)混迷する急進社会主義
(3)市場経済化への道
第2章 中華民国期経済政策史論
1 中華民国北京政府期、1910年代
2 中華民国国民政府期、1920-40年代
(1)孔祥煕の国営企業展開構想
(2)宋子文の民間主体の経済政策
(3)陳公博の輸出志向型の経済発展論
(4)翁文灝の戦時統制経済論
第3章 戦時の工業政策と工業発展
1 重慶政府の戦時工業政策
(1)沿海地域からの工場移転
(2)民間資本の新規投資
(3)国営企業の創設
2 工業生産指数の新推計
3 工場登記統計の再整理
おわりに――戦時における工業発展の歴史的意義
第4章 重慶政府専門家のソ連経済観
1 日中戦争開始以前のソ連経済観
2 日中戦争前期のソ連経済観
3 日中戦争後期のソ連経済観
結 び
史料・文献一覧
事項索引
人名索引
あとがき
内容説明
【本書より】(抜粋)
本書は、1920年代末に成立した国民党政権の大陸統治が、眼前にある現代中国の国家統治の原型の出 現にほかならなかったことを、民衆統合、財政確立、経済発展という三つの側面から明らかにした。国民党政権の成立と発展は、中華民国時代の中の重要な画期になったばかりではなく、現代につながる諸問題を提起する新たな動きであったということからも重視されなければならない。国民党と共産党は、時として政治的に鋭く対立したにもかかわらず、それぞれが進めた国家統治の在り方に着目するならば、驚くほど多くの共通するものを持っていた。
……民衆統合、財政確立、経済発展という三つの側面から浮かびあがってくる国民党政権の特質には、1949年に成立し現在まで続く共産党政権に通じるものが少なくない。民主化運動に対し慎重に対処してきた共産党政権は、当初から運動を全面的に禁圧するような方法は採らず、常にそれが急進化し民衆の多数の支持を失う頃を見計らってから強権的に押さえ込むという手法で臨んできた。それは決して偶然ではない。国民党政権と同様、共産党政権もまた民衆を政権の統治の下に統合しなければならず、民衆の支持によって成立した人民共和国という基本線を重んじなければならないのである。中央と地方の間の平衡に配慮を加えながらも、必ず中央政府の財源確保に軸足を置いた財政運営を行ってきた点も、税源こそ変化したとはいえ、やはり国民党政権の方針を共産党政権が踏襲してきたものであった。経済発展政策において、軍需重工業への優先投資をはじめ国民党政権が推進した戦時統制経済の多くの部分が共産党政権に引き継がれたことは、第Ⅲ部で繰りかえし指摘したとおりである。統制と開放の間を揺れ動くことを含め、二つの政権の間に共通する要素は少なくない。
対外的な危機が深まる中、近代国家の創設がめざされた時代に、同じ一党独裁という手法によって政権を運営する以上、類似する性格が生まれるのは不可避であったというべきなのかも知れない。
現代中国の原型がその姿を現してきた時代、それが国民党の大陸統治時代であった。