内容説明
【「序語」より】(抜粋)
本書『様々なる変乱の中国史』は、中国史上において無数に起きた変乱―戦争、反乱、事変、外征等の検討解明を通して、大小様々な変乱が中国歴史の歯車の一つとして組み込まれる過程を明らかにするという趣旨によって編まれた。変乱は、いろいろ複合的な背景・要因で起こるものであるから、その複合的な絡み方を政治的経済的外交的等の複眼的視野から検討しなければ、その変乱発生の必然の接点を解きほぐすことはできない。本書においては、かかる視点から、既知の事実についても、新しい照明を当て、新しい視界のなかで、隠れた意味合いを発見するということに力め、変乱の結果生じた歴史的影響力の深刻度から逆算しないまでも、それぞれの変乱の必然の太い綱を探りだそうとするものである。
本書に収録された諸論文は、如上の視点から、それぞれがこれまで蓄積してきた研究を踏まえて、中国の歴史に絡む様々な「変乱」の態様を検討し、それが歴史上になにをもたらし、いかなる転換を生み出したか、歴史的文脈のなかに位置づけることに力めた。これによって、従来、比較的大掴みな一般論的理解のみに終わっていた当該「変乱」もその地域的・時期的特徴を具体的に把握することができるであろう。本書においては、通史的理解を容易にするために、各論文は時代順に配列した。
大原信正「反董卓同盟の成立」
中期以降、種々の政治混乱が噴出し衰頽へと向かっていった後漢王朝の崩壊過程を、その直接原因となったとされる董卓の専横と軍閥割拠を中心に検討するにあたり、軍閥割拠を生み出した要因の一つである反董卓同盟の成立を軸に検討した。
前島佳孝「隋の滅亡と禅譲革命」
当時、恭帝以外にも隋の皇帝が存在したことや皇帝に即位させられた隋の宗室たちを一括して取り上げ、相互に比較することによって、その拠って立つところを明確にし、複数回現れる禅譲のあり方を示すことで隋の滅亡と禅譲との関わりを論じ、分裂しつつも隋を続けたそれぞれの勢力の立ち位置を示した。
大室智人「北宋における南方産馬の軍事利用―広南西路の買馬を中心に―」
狄青・郭逵の戦例と、その周辺で行なわれた議論の変遷を辿ることによって、北宋朝廷が広南西路で買馬を開始した背景と意図、並びにそこで集められた馬の特徴を明らかにし、北宋騎兵に南方地域で求められた特性と、北宋の軍事体制上より見たその意義について論じ、北宋という国家に求められる軍隊の特徴は、全てにおいて一面的・均質なものではなく、各方面の実情に沿い、実戦能力を備えた合理的な軍隊であり、広南西路の買馬は、南方における騎兵の常時運用を目指し、特に熙寧・元豊という神宗朝の対外積極策という国策にも支えられた、北宋の急速な軍事力強化策の一端と捉えている。
川越泰博「謀反は作られる―明宣徳朝の諸王政策によせて―」
宣徳帝が削減の対象とした全ての王府の護衛についてその経緯を探り、それらをほぼ貫く太い綱を剔出し、宣徳帝による王府護衛政策の実相に迫るものである。
奥山憲夫「変・乱の背後で―軍士の私役と売放―」
一六世紀以後に起きる様々な変乱・反乱では生活に困窮した軍士・余丁、あるいは大量に逃亡した軍士が大きな役割を果たしているが、本論文は、そのような病弊を生み出した背景の一つとして、武臣の犯罪に視点をおく。
荷見守義「辺境紛争と統治―万暦九年の遼東鎮―」
九辺鎮の東端にあたる遼東鎮において万暦九年におけるモンゴル・ジュシェンの侵攻と撃退、及びモンゴル・ジュシェンによる夜不収などの略取に関わって、鎮の防衛網はどのように情報をやりとりして対処していたのかを、複数の明朝档案を分析しつつ詳細に検討し細かい現場の動きを捕捉し、鎮全体についての動きを把握しようとしたものである。
道上峰史「明末奢安の乱再考」
楊応龍の乱から崇禎四年に雲南阿迷州の土司普名声が起こした反乱までの流れの中に奢安の乱を位置づけ、この反乱の連鎖が、明朝の弱体化だけでなく、土司同士の婚姻関係や、勢力図の変化によって生じた可能性まで言及し、明末西南地域で起きた奢安の乱がもつ歴史的意義を明らかにした。
塚瀬 進「清代黒龍江における社会変容と馬賊」
馬賊による略奪を可能としていた社会的状況の考察をおこなうことで、清代の黒龍江で生じていた社会変容を検証し、社会変容との関わりから馬賊の活動、清朝の対応を検討した。
西川和孝「一九世紀初頭の雲南省元陽県一帯における漢人流入とその影響について
―窩泥人高羅衣の蜂起を通して―」
高羅衣蜂起の経緯と蜂起の主体となった人々を明らかにした上で、漢人移民の入植による環境面等の地域社会に与えた影響を考察するとともに入植を促した社会的経済的要因についても論じた。
高遠拓児「日露戦争期における奉天軍政署と清朝官民
―『小山秋作氏旧蔵奉天軍政署関係史料』所収文書の紹介を中心として―」
小山秋作遺蔵史料の価値の一端を示すとともに、清朝官民の作成した文書類、具体的に言えば「照会」や「呈」、「稟」といった現地の官庁や住民が軍政署に宛てて送った文書類を一部紹介し、日露戦争期に日本が満洲に置いた軍政署に、現地の清朝官民が何を訴え、どのように働きかけをしたかに言及する。
【内容目次】
序 語
反董卓同盟の成立……………………………………………… 大 原 信 正
隋の滅亡と禅譲革命 …………………………………………… 前 島 佳 孝
北宋における南方産馬の軍事利用
―広南西路の買馬を中心に― ………………………… 大 室 智 人
謀反は作られる―明宣徳朝の諸王政策によせて― …………… 川 越 泰 博
変・乱の背後で―軍士の私役と売放― ……………………… 奥 山 憲 夫
辺境紛争と統治―万暦九年の遼東鎮― ……………………… 荷 見 守 義
明末奢安の乱再考……………………………………………… 道 上 峰 史
清代黒龍江における社会変容と馬賊…………………………… 塚 瀬 進
一九世紀初頭の雲南省元陽県一帯における漢人流入とその影響について
―窩泥人高羅衣の蜂起を通して― ……………………… 西 川 和 孝
日露戦争期における奉天軍政署と清朝官民
―『小山秋作氏旧蔵奉天軍政署関係史料』所収文書の紹介を中心として―
………… 高 遠 拓 児
跋 語・中文目次