目次
巻十一:梅先遇人
食蟹報
瓦隴夢
促織怪
陳大錄爲犬
蔡衡食鱠
李邦直夢
趙敦臨夢
張太守女
大庾震吏
張端愨亡友
六鯉乞命
五郞鬼
東坡書金剛經
何丞相
潘君龍異 ほか
巻十二:林積陰德
林氏富證
雷震石保義
食鱔戒
縉雲鬼仙
宣和宮人
京師道流
倉卒有智
汪彥章跋啓
六合縣學
高俊入冥
鼠壞經報
誦天尊止怖
僧爲人女
向氏家廟
巻十三:狄偁卦影
死卒致書
傅世修夢
樊氏生子夢
楊大同
董白額
婺源蛇卵
鄭氏女震
鄭升之入冥
黃十一娘
謝希旦
盧熊母夢
范友妻
婦人三重齒
馬簡冤報
陳昇得官 ほか
論考:『夷堅志』の新しさ―冥界説話をめぐって― (安田真穂)
(再生説話を題材に六朝以来の志怪、伝奇小説との比較を論じる。)
内容説明
【「甲志上」前言より】(抜粋)
不思議な出来事の記録は、古くから史書の中に残されてきた。『春秋左氏傳』には「大豕」が人立して啼 き(莊公八年)、晉の魏楡で石が物言う(昭公八年)ことが記され、また『史記』巻一〇七「魏其武安侯傳」 では、田蚡が竇嬰と灌夫の霊に取り殺されたことを窺わせている。不思議なことでも、あり得べきと認識されれば史実に含められて記録されたのである。そうであれば、現存する最古の小説集と言われる『搜神記』が、西晉の史官である干寶の手によって編纂されたのも、むしろ当然の成り行きと言えるのかもしれない。そして同様の書物が次々と生まれ、不思議な出来事、珍しい話を記すことが、「志怪」と呼ばれる文学ジャンルとして独立する。そこに『世說新語』に代表される、人物の言行を記録した所謂「志人」小説の流れが加わり、また仏教説話も加わって、小説の世界は六朝後期には豊かな内容を備えるに至る。
唐代に入ると、題材の珍しさ、不思議さだけでなく、それを記す叙述の巧みさにも関心が向くようになり、 記録性のみならず文学性をも重視されるようになった。さらに九世紀前半には男女の愛情が大きなテーマとなり、元稹の「鶯鶯傳」、白行簡の「李娃傳」など著名な文学者の手になる作品も多数生まれて、ここに「伝奇」と呼ばれる新たなジャンルが登場した。「小説」を近代的な概念に則して考えるなら、この「伝奇」に至ってそれに近いものが現れたと言って良い。恋愛譚だけでなく、変身譚、胡人採宝譚など、テーマも多岐に亙っている。しかし、文章力を問われる「伝奇」は唐王朝の衰退と共に作品数を減少させ、宋代に入って巷で流行していた語り物が都市部の勾欄での芸能へと発展するに伴い、やがては白話小説に主役の座を奪われることになる。宋の太宗の勅命を受け、太平興國三年(九七八)に李昉らがそれまでの「志怪」「伝奇」小説を集めて『太平廣記』五百巻を編纂したが、それは流行がひとつの区切りを迎えたことを象徴する出来事でもあった。事実、その後しばらくは低調となるが、靖康の難による宋室の南遷という事態を背景として、新たな「志怪」小説集が登場する。それが洪邁(一一二三―一二〇二)の編纂した『夷堅志』である。