内容説明
「両漢儒教研究」共同研究成果―第四弾!
本書は、渡邉義浩を代表とする科学研究費、基盤研究(A)「両漢儒教の新研究」の研究成果の一部である。本科研は、二〇〇八年度が最終年度となる。二〇〇五年四月から二〇〇九年三月までの四年間に、『両漢の儒教と政治権力』(汲古書院、二〇〇五年)、『両漢における易と三礼』(同、二
〇〇六年)、『両漢における詩と三伝』(同、二〇〇七年)、そして本書とい
う四冊の共同研究の成果を刊行したことになる。
『両漢の儒教と政治権力は』、「儒教の国教化」をめぐる問題を中心として、両漢の儒教を研究していくうえで何を解明していけばよいのか、という問題提起の書であった。『両漢における易と三礼』・『両漢における詩と三伝』は、両漢における儒教の具体的な問題を明らかにしていくため、『周易』「三礼」『詩経』「春秋三伝」そしてタイトルには含まれないが『尚書』の論文も納めて、「五経」の哲学的内容と政治権力との関係を解明することに努めた。
本書は、儒教と政治権力とが最も密接な関わりを持つ「天」に関する国際シンポジウムをまとめた第一部と、メンバーが四年間の研究成果を結実させた論文を中心とする第二部よりなる。
第一部「両漢における「天」の文化―思想史と歴史学の連携による」は、二〇〇八年五月二四日に、日本教育会館で行われた第五三回国際東方学者会議におけるシンポジウムをまとめたものである。
四年間にわたり、中国哲学・中国史学の枠を超えた学際的な共同研究を行うことにより、両者に共通する認識が着実に積みあげられた。具体的には、これまで、中国哲学と中国史学との間で、共通の認識を持ち得なかった「前漢武帝期に董仲舒の献策により五経博士が置かれ、儒教が国教化された」という班固の『漢書』の偏向による誤った認識は、溝口雄三・池田知久・小島毅『中国思想史』(東京大学出版会、二〇〇七年)の中では否定され、また、山川出版社の高等学校用教科書『詳説世界史』からも削除された。しかし、一方において、研究が進展するにつれ、両漢における儒教の問題を「両漢」という時間軸のなかだけで解明することに、次第に限界を覚えてきたことも事実である。シンポジウム「両漢における「天」の文化」において、儒教の「天」を扱うだけではなく、道教の「天」を対比材料として比較・検討を試みたのは、両漢という時間軸・儒教という分析視角だけでは、学際的な研究に限界のあることを認識したからに他ならない。
ことに、漢の儒教を集大成したとされる鄭玄の学説は、鄭玄に対する全面的な批判者である魏の王肅の学説を研究することで、初めてその儒教史上における位置を確定することができる。そして、魏から始まる魏晋南北朝時代は、漢代までの儒教一尊に代わって、儒・史・文・玄の四学、儒・仏・道の三教が兼修された時代となる。
今後は、中国哲学・中国史学だけではなく、中国文学をも含めた学際的な研究が、さらに必要なのである。儒教だけでなく、文学や玄学、道教や仏教をも視座に入れた新たなる総合研究を目指していきたい。
(あとがき より)
【内容目次】
第一部 第五三回国際東方学者会議 東京会議 シンポジウムⅣ
「両漢における「天」の文化―思想史と歴史学の連携による」
趣旨説明(池田知久)
報 告
一、漢代以前の「天」と「上帝」 サラ・アラン(梅川純代 訳)
コメント/池澤 優
二、天人相関と「自然」 池田知久
コメント/影山輝國
三、両漢における天の祭祀と六天説 渡邉義浩
コメント/金子修一
四、鄭玄の六天説と両漢の礼学 池田秀三
コメント/間嶋潤一
五、道教の天―「初期天師道」における「天帝」を中心に
三浦國雄
コメント/神塚淑子
総合討論
第二部 両漢における儒教の展開
一、「喪服」の解釈 古代中国儀礼書にみえる葬送儀礼に関する注記の
体裁と内容―「喪服伝」を中心に
ヨアヒム・ゲンツ(梅川純代訳)
二、前漢時代の宗廟と楽制
―『安世房中歌』十七章と承天のイデオロギー
渡辺信一郎
三、『漢書』天文志に見える天人の関係性 田中良明
四、後漢時代の鎮墓文と道教の上章文の文書構成
―『中国道教考古』の検討を中心に 池澤 優
五、両漢における華夷思想の展開 渡邊義浩
六、王弼忘象論再考 辛 賢
あとがき・執筆者紹介