目次
第一部 古態の探究
第一章 巻四における古態本文の探究
一 はじめに
二 異同の概要
三 A系統とB系統の先後
四 A系統増補記事の典拠
五 D系統・E系統の位置
六 むすび
第二章 巻三十八の古態本文とその世界
一 はじめに
二 畠山道誓滅亡記事の異同
三 両系統の先後関係
四 細川清氏討死記事の検討
五 細川頼之に対する評価の問題
第二部 神田本の検証
第一章 神田本本文の基礎的考察――巻十六を中心に――
一 はじめに
二 神田本本文の基底――玄玖本との比較から――
三 神田本巻十六の古態性
四 神田本の古態性に対する留保
五 巻十五後半について
六 むすび
第二章 巻二十七「雲景未来記事」の編入過程
一 はじめに
二 巻二十七の異同の概要
三 巻二十七の本文異同にかかわる主な先行研究
四 「雲景未来記事」の位置と評価
五 神田本・西源院本の古態性に対する疑問
六 諸本の検討
七 吉川家本の検討
八 むすび
第三章 神田本の表記に関する覚書――片仮名・平仮名混用と濁点使用を中心に――
一 はじめに
二 片仮名・平仮名混用の淵源
三 神田本『太平記』の表記法の全体像
四 片仮名・平仮名使用の実態
五 他資料の状況
六 濁点の使用
七 むすび
第三部 作品とその周辺
第一章『太平記』における禅的要素、序説
一 はじめに
二 研究史を振り返る
三 禅に由来する句の引用
四 『太平記』作者と禅宗との距離
五 むすび
第二章『源平盛衰記』と『太平記』――説話引用のあり方をめぐって――
一『太平記』と『平家物語』諸本
二 延慶本における説話引用
三 盛衰記における説話引用
四 『太平記』における説話引用
五 むすび
第三章『梅松論』における足利尊氏――新たなる将軍像の造形――
一 『梅松論』における歴史叙述
二 尊氏正当化の方法
三 頼朝と重ね合わせること
四 御当家の佳例
五 新たなる将軍像の造形
六 観応擾乱の影
第四章 室町時代における『太平記』の享受――『応仁記』を中心に――
一 十四世紀前半における『太平記』の享受
二 『応仁記』における『太平記』受容
三 なぜ『応仁記』に注目するのか
第四部 伝本の考察
第一章 国文学研究資料館蔵『太平記』および関連書マイクロ・デジタル資料書誌解題稿
はじめに
一 写本
二 古活字本
三 整版本
四 抜書
五 参考太平記および関連書
六 太平記賢愚抄
七 太平記鈔・太平記音義
八 太平記秘伝理尽鈔および関連書
九 太平記評判私要理尽無極鈔
一〇 太平記大全および関連書
一一 太平記綱目
一二 首書太平記
一三 太平記在名
一四 その他
附 国文学研究資料館蔵『太平記』および関連書書誌
第二章 国文学研究資料館所蔵資料を利用した諸本研究のあり方と課題
――『太平記』を例として――
一 はじめに
二 『太平記』写本について
三 『太平記』古活字本について
四 『太平記』整版本について
五 『参考太平記』『太平記秘伝理尽鈔』について
六 マイクロ資料をめぐる課題
七 むすび
第三章 松浦史料博物館所蔵『太平記』覚書
一 はじめに
二 その古態性
三 本文の混合化
四 各巻の本文
五 むすび
第四章 東北大学附属図書館漱石文庫所蔵古活字版『太平記鈔・音義』表紙の復原的考察
一 はじめに
二 漱石文庫の『太平記鈔・音義』
三 『太平記鈔・音義』の表紙裏反古
四 刷反古をめぐって
五 むすび
第五部 研究の来歴
第一章 一九八五年〜一九九八年
第二章 一九九九年〜二〇二三年
一 『太平記』とはいかなる作品か
二 『太平記』の文学史的環境(一)――漢籍受容を中心に――
三 『太平記』の文学史的環境(二)――和歌受容、史的背景を中心に――
四 諸本研究の進展
五 享受史研究の進展
六 日本語学的研究の可能性――むすびにかえて――
初出一覧
あとがき
索引
人名の部
書名の部
『太平記』伝本の部
研究者の部
所蔵者の部
内容説明
【「はじめに」より】(抜粋)
前著『太平記・梅松論の研究』につづき、『太平記』関連の論考をまとめ、『太平記新考』を上梓する。
本書は以下の五部より構成される。
第一部「古態の探究」は、従来、古態の本文を保つと認識されてきた甲類本に対して、一部の巻において乙類本系統の方が古態をとどめることを論じる二論考を収める。軍記物語は本文異同の大きい伝本群を有することを常としており、そのなかでより古い姿を保つ本文を探究することは、依然として重要な作業と思われる。『太平記』においても、当該の巻を乙類本に古態を認めて読みなおした場合、甲類本を通じて理解していた作品像とはまた違う様相が立ち現れてくる。
第二部「神田本の検証」は、甲類本のなかでも古い本文をもつと見なされることの多い神田本に対して、いくつかの角度から古態性の検証を行ったものである。巻十六においては確かに諸本中、最古態の本文を有することが確認できるが、巻二十七においては「雲景未来記事」を巻の半ばに置く形態の本文よりも、のちの姿をとることを指摘した。また、第二部には神田本の片仮名・平仮名混用という特異な表記と濁点表記に関する論考も収めた。
第三部「作品とその周辺」には、作品理解に関する論考を収めた。冒頭に禅林と『太平記』の距離を批判的に考察した論を掲げたほかは、『源平盛衰記』『梅松論』『応仁記』をとりあげ、『太平記』とあわせ論じた。これらの作品の特色を見極めることで、『太平記』の叙述の特色や文学史的意義はより明瞭なものになると思われる。
第四部「伝本の考察」には、『太平記』諸本の書誌研究、本文研究にかかわる論考を収めた。第一章「国文学研究資料館蔵『太平記』および関連書マイクロ・デジタル資料書誌解題稿」は、初出後十余年を経て、国文学研究資料館における古典籍のデジタル化事業が一気に進んだことを受け、大幅に内容を更新した。
第二章「国文学研究資料館所蔵資料を利用した諸本研究のあり方と課題――『太平記』を例として――」は第一章の副産物というべきものである。マイクロ・デジタル資料を用いた諸本研究の課題としては、いまだ通用しうる内容と思われるので、あわせて収録した。
第五部「研究の来歴」は、一九八〇年代半ばから今日にいたる『太平記』研究の動向を振り返り、主要な論考を紹介したものである。