目次
序(山本英史)
目次・凡例
Ⅰ 明 代
Ⅱ 清 代
跋(三木 聰)
書名索引・人名索引・省別索引
内容説明
【本書】より
「判牘」とは滋賀秀三氏の定義に従えば、「過去の中国において、訴訟案件を扱った地方長官が、何らかの裁きを与える意味をもって書き残した文章」(同『清代中国の法と裁判』創文社、1984年)である。その多くは個人の文集である別集の一部として、あるいは公文書を集めた公牘の一編としてそれぞれ収められたが、判牘だけを集めて一書をなし、『○○判牘』ないしは『○○判語』などの名において刊行されたものも少なくない。
刊行の目的は、官僚個人が実際に携わった裁判記録を書物として後世に遺すためであった。経学や詩文に長じない限り、みずからが著した文章で多数を占めるのは勢い公文書であり、とりわけその中でも判牘だったからである。刊行のもう一つの目的は、読者の需要に応えるためであった。科挙に合格したばかりで官僚経験の浅い者がいきなり赴任地の紛争に対して判決を下さざるを得ない環境の下、実際に参考にしたのは具体的な判決とその書式であったからである。これは地方官の政治顧問的役割を果たした幕友にとっても判例集として有用だったに違いない。そうした事情は判牘の刊行をさらに促進した。
判牘が裁判文書集であるという性質から、後世におけるその資料としての利用は法学研究の分野から始まったことは当然だった。他方それと対照的に歴史研究の分野でこれを史料として活用したものは以前においてはほとんどなかったといってよい。近年、その判牘が歴史研究においても注目を集め、とりわけ事件記録の中に示された諸情報が当時の地方社会のあり方を具体的に伝えていることから社会史研究の分野において積極的に活用されるようになってきた。……判牘は編纂物である限り、もちろんいわゆる一次史料ではありえない。判牘の元は「档案」と呼ばれる元文書であり、判牘はそうした裁判の過程で何枚にもわたって発行された書類群が提供した多くの情報を簡潔にまとめたものに過ぎない。またこれは官僚個人の記録であることから、彼とその関係者にとって後世に遺すことが望ましくないと判断した案件――自分の判決案が上司によって却下された場合など――は収録対象からはずされたことが想定され、判牘が裁判記録の全貌を伝えているとは限らない。さらに時として収録された文書にも何らかの事情によって改変が加えられた可能性もないとはいえない。しかし、前近代中国においては、地方司法行政に関わる档案で現存するものが極めて少ないという実情にあって、すでに失われた原件文書の情報の一端をいまに伝えている特徴をもつ判牘はなお固有の史料的価値を持っているのである。
本書は以上のような背景の下、判牘を法学研究、歴史学研究、さらには文学研究の資料としていま以上の活用を促進する目的で編んだものである。
【凡例】より
本目録は、各種の書目・研究等を通じてその存在を知り、或いは直接の閲覧・調査によって確認しえた判牘資料189種の書誌・内容等をほぼ時系列に沿って提示したものである。但し、ここでは厳密な意味での判語・判牘ばかりでなく、主に地方レヴェルの訴訟・裁判資料について広い範囲での採録を行っている。記載内容は、最初に通し番号と共に、一般の漢籍目録に準拠して、書名・巻数・撰者・鈔刻・叢書等を提示し、鈔刻については、一部の例外を除いて、最も古い版本を掲げた。