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伝統中国と福建社会

伝統中国と福建社会

◎明代前期から共和国成立まで、固有な歴史的世界を持つ〈福建〉を考察する

著者 三木 聰
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 明清
東洋史(アジア) > 近現代
出版年月日 2015/02/28
ISBN 9784762965425
判型・ページ数 A5・408ページ
定価 12,100円(本体11,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

主要目次】

 第一章 明代の福建における魚課について
  一 明初における魚課と河泊所〔「閘辧魚課」とは何か/河泊所の設置〕
二 弘治年間における魚課改革  三 魚課の徴収をめぐって〔魚課と澳甲制/魚課と里甲制〕
第二章 福建巡撫許孚遠の謀略――豊臣秀吉の「征明」をめぐって――
一 許孚遠の「請計処倭酋疏」〔史世用・許豫の派遣と日本情報/許孚遠の反封貢論と対日方略〕
二 明朝中央政府の反応〔封貢中止と「請計処倭酋疏」/首輔王錫爵・兵部尚書石星の反応〕
三 許孚遠の「回文」と「檄文」
第三章 裁かれた海賊たち――祁彪佳・倭寇・澳例――
一 イメージ/トラウマとしての倭寇
二 汪康謡の裁きと海賊たち〔汪康謡と海賊案件/海賊の再生産と汪康謡の裁きかた〕
三 祁彪佳の裁きと海賊たち〔祁彪佳と『莆陽讞牘』/海賊の再生産――「被擄」から「従賊」へ/海賊
の裁きかた――「被擄」と「従賊」との差異――〕
四 祁彪佳の裁きと沿海地域社会〔海賊と地域性――族的戦略としての海賊――/澳例と沿海地域社会〕
第四章 清代前期の福建汀州府社会と図頼事件――王廷掄『臨汀考言』の世界――
一 王廷掄『臨汀考言』と「澆漓之習俗」   二 「藉命居奇」「図頼之計」――汀州府の図頼事件――
三 図頼はどのように裁かれたのか
第五章 乾隆年間の福建寧化県における長関抗租について――新史料二種の紹介を中心に――
一 従来の長関史料と研究史         二 謝氏家廟の「寧邑奸佃長関蔽租碑記」
三 謝氏族譜に見える長関史料
第六章 土地革命と郷族――江西南部・福建西部地区について――
一 土地法と公田              二 土地革命の実践と郷族
第七章 一九五〇年期福建の土地改革と公地・公田
一 福建における土地改革の概況       二 土地改革前の土地所有状況と公地・公田
三 公地・公田の徴収をめぐって
附 篇 万暦封倭考――封貢問題と九卿・科道会議――
一 封貢問題の経緯             二 万暦二十二年三月の九卿・科道会議
三 万暦二十二年四月の九卿・科道会議と諸龍光疑獄事件〔四月二十八日の九卿・科道会議/諸龍光疑獄
事件〕
四 万暦二十二年五月における封貢中止の決定 五 封倭の決定と冊封使の派遣
六 万暦二十四年における封貢問題の再燃   
七 万暦二十四年五月の九卿・科道会議〔九卿・科道会議開催の決定/五月八日の九卿・科道会議〕
あとがき 索 引〔事項・人名〕

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内容説明

【序】より(抜粋)

本書は、一九八六年から二〇一三年までの間に、筆者が発表した論考を集成したものである。本書の各章は、主として、中国の東南沿海に位置する福建省を地域的対象とし、また十四世紀の後半に始まる明朝の時代から二十世紀半ばの土地改革の時代までを扱っている。それらは本書の標題が示すように、〈福建社会〉という空間的世界を、現代、或いは当代の中国にも通底する〈伝統中国〉という時間軸のなかに置いて分析・検討を加えたものである。〈福建社会〉および〈伝統中国〉という枠組み自体は、前著『明清福建農村社会の研究』(北海道大学図書刊行会、二〇〇二年)における問題意識を踏襲している。前著は明清時代の農村社会に見られる抗租という地主―佃戸関係の矛盾の表象をめぐり、それと関連する地域経済・国家権力、或いは図頼行為という諸問題の考究を通じて、抗租のもつ豊かな歴史に眼を向けたものであった。それに対して、本書の内容は福建の沿海地域から内陸の山区へ、また〈海〉の魚課・海賊の問題から〈陸〉の抗租・公田の問題へというように、分析の対象は様々で、そこには一貫性が見られず、或いは散漫の誹りを免れないのかも知れない。しかしながら、筆者の問題関心自体は、依然として〈伝統中国〉の持続性との関連において福建という一地域に固有の歴史的世界を解明することにある。本書が成し得たことは、ごく些細なものであり、いわば〈点の歴史〉を明らかにしたに過ぎないとはいえ、これらの所論が故高橋芳郎氏の言われる「捨て石」となって、今後の研究にわずかなりとも寄与することができれば望外の悦びである。…

  第一章は、福建における魚課の問題を、明代の前期から中後期にかけて考察したものである。第二章は、万暦二十年代の初めに福建巡撫を務めた許孚遠の文集『敬和堂集』所収の「請計処倭酋疏」を糸口に、朝鮮半島を舞台とする壬辰戦争の裏面史を、福建―薩摩間の商業貿易関係との関連において考察したものである。第三章は、明末天啓・崇禎年間の福建において、知府・道台を務めた王康謡および推官として在任した祁彪佳の判牘――『閩讞』および『莆陽讞牘』――の分析を通じて、倭寇・海賊の存在形態と沿海地域社会との関連について考察したものである。第四章は、前著の第四部で取り上げた図頼――死骸を利用して怨みをもつ相手を恐喝・誣告する行為――について、清初康煕年間の汀州府の事例による考察を加えたものである。第五章は、二〇〇九年・二〇一〇年の福建寧化県(明清期は汀州府寧化県)における史跡・史料調査で発掘・実見することのできた新史料、すなわち謝氏家廟内の碑刻「寧邑奸佃蔽租碑記」および『謝氏十修族譜』「増修祀産紀」の初歩的な分析を通じて、明清鼎革期の〈黄通の抗租反乱〉時に登場した長関が乾隆三十年代まで持続的に存在していたという確かな史実を提示したものである。第六章は、一九二〇年代末から一九三〇年代初までの江西南部・福建西部地区(贛南・閩西革命根拠地)における土地革命と当該地区に特徴的な〈郷族〉との関連について考察したものである。第七章は、建国直後に公布された「中華人民共和国土地改革法」に依拠して実施された福建省の土地改革と族田等の宗族的土地所有を中心とする公地・公田との関連を考察したものである。最後に附篇であるが、内容的には、壬辰戦争に対する明朝中央の封貢・封倭をめぐる政策的対応と政策決定過程について、万暦二十一年(一五九三)四月から同二十四年五月までの時期を対象に考察を行っている。

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