目次
第一部 法書の基本的性格
第一章 「法曹至要抄」の基礎的研究
第二章 「裁判至要抄」の成立をめぐって
―「法曹至要抄」との関係を中心にして―
第三章 法書「明法條々勘録」の基礎的研究
第二部 法書に見る中世法の法理
第四章 「和与」概念成立の歴史的意義
―「法曹至要抄」にみる法創造の一断面―
第五章 中世法書における悔還の法理について
第六章 「越訴」の語義をめぐる一考察
―公家法と武家法との関係から―
第三部 家学の形成と明法道
第七章 中世初期の明法道について
第八章 院政期明法学説の形成
第九章 明法博士官歴攷
結 言
初出一覧
索 引
英・仏文要旨
内容説明
【序言「公家法研究の現状と本書のねらい」より】(抜粋)
これまでの明法道の研究は殆ど纏まったものがなく、僅かに、昭和四十一(一九六六)年に上梓された布施弥平治氏の『明法道の研究』(新生社)があるのみであった。その理由は、明法家の法曹としての活動が軽視されてきたからであった。十世紀後半になり律令制度の頽廃によって、律令学も衰えると、明法家も活動の場を失い、先例に基づき法実務をこなす下級官吏に凋落していくという評価が一般的であったからである。
平安期以降の明法家は、律令格式等の分類彙纂を専らにし、それを法書にまとめるなどに留まり、本来なすべき立法活動等には消極的であったと評価されてきた。
ところが、近年に至り、中世の法書を読み解くことで、立法的解釈を行う明法家の姿が徐々に明らかになってきた。律令法の後身たる公家法の担い手となった明法家の活動が再評価されてきたのである。これにともない、明法家が著した法書自体の性格を問う研究も発表されるようになった。しかし残念ながら、本格的なテキスト研究には発展せず、公家法についても、律令法との相違や、公家法を母法として生まれた国衙法、本所法、武家法との親子関係など、基本的な問題がいまだに明らかにされていないのである。
その結果、中世法を論じる際には、武家法ばかりが取り上げられ、武家法と公家法との関係は等閑視されてきた。これは公家法の実態が正確に把握されておらず、公家法の基本テキストである法書の内容でさえ、その理解が十分でなかったことに起因する。
そこで私は、前著『日本中世法書の研究』において、公家法の法書のなかでも、代表的な「法曹至要抄」「裁判至要抄」の性格を明らかにするために、これらの法書に法源として引用される律令の諸条文に遡って当時の明法家によるその法解釈を分析し、その法解釈が中世法の法理形成に果たした役割を解明した上で、その法理が武家法に及ぼせる影響についても具体的に論及した。また、院政期の明法家が、中世法のキーワードともいうべき、「和与」、「悔還」といったテクニカルタームを創造していく過程を追いながら、明法家の立法的解釈の特徴を明らかにした。これらの論考では、さらに語義の変遷を跡づけることによって解釈変更の要因までも考察した。
ところが、公家法や明法道を対象とした研究は、その後も進展をみせず、中世諸法の関係性を問う研究は殆ど管見に触れない。そこで前著上梓後に発表した、法書と明法道に関する諸篇、すなわち、代表的な中世法書の一つとしてあげられる「明法條々勘録」の性格について論じた一篇(第三章)、法書を編纂する際の法源の引用方法や、法素材の選定方法について論じた一篇(第七章)、明法家の家学が形成されていくプロセスを法家問答から明らかにした一篇(第八章)、明法博士の社会的役割の変化を、在職中に兼務した官職の変遷から考察した一篇(第九章)を新たに加えて、本書を上梓するものである。
これらの基礎的な研究によって公家法研究が少しでも進展すれば望外の喜びである。
A study of medieval law books and Myōbōdō