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張衡の天文学思想

張衡の天文学思想

◎中国古代の天文学――天の思想を解明する

著者 髙橋 あやの
ジャンル 中国思想・哲学
中国思想・哲学 > 先秦漢
中国思想・哲学 > 魏晋隋唐
出版年月日 2018/12/10
ISBN 9784762966224
判型・ページ数 A5・346ページ
定価 10,450円(本体9,500円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

序 (吾妻重二)

序章 本書の立場
   一 中国における天文学と天の思想         
   二 科学と術数
   三 張衡について                 
   四 中国古代の宇宙論  
   五 本書の構成と目的               
   (参考)張衡年譜

第一章 「渾」の用法に見る渾天説の原義
    一 上古音から見る「渾」の類型          
    二 「渾天」の用例
    三 古代の文献に見られる「渾」          
    四 揚雄における「渾」の用法
    五 張衡における「渾」の用法           
    おわりに――渾天説の原義

第二章 『霊憲』と『渾天儀』の比較
    一 『霊憲』と『渾天儀』の比較          
    二 『渾天儀』は張衡の作か
    三 『霊憲』と『渾天儀』の扱いの相違の要因
    (参考)『渾天儀』の張衡著作部分と後世の注釈部分について

第三章 渾天説の天文理論
    一 張衡の渾天説――張衡は地球概念をもっていたか 
    二 天文理論の継承と発展

第四章 渾天説と尚水思想
    一 尚水思想の系譜                
    二 渾天説における尚水思想
    三 張衡と尚水思想と崑崙山            
    四 天・地・水の思想

第五章 張衡「思玄賦」の世界観
    一 張衡と「思玄賦」               
    二 「思玄賦」の内容と構成
    三 崑崙と黄帝、西王母の位置           
    四 天上世界の描写
    おわりに――「思玄賦」と張衡
 
第六章 張衡と占術
    一 「思玄賦」の占術表現             
    二 『霊憲』の占術表現
    三 讖緯に対する態度

第七章 張衡佚文の考察
    一 張衡の星・星座・惑星の知識          
    二 張衡の佚文
    三 張衡佚文と『晋志』、『史記正義』        
    四 張衡佚文の検討
    (附表)張衡の佚文対照表

第八章 『海中占』関連文献に関する基礎的考察
    一 目録中の「海中」諸文献
    二 「海中」諸文献の「海中」に対する認識     
    三 『海中星占』、『海中占』の佚文
    四 『海中占』の占辞の特徴            
    五 「海中」の検討
    附 『海中占』の輯佚

終章 本書のまとめ       


参考文献一覧

索引

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内容説明

【序(吾妻重二)より】(抜粋)

髙橋あやの氏のこの書は、後漢の天文学者である張衡(七八〜一三九)を中心として、中国古代における天文学や宇宙論、星座の知識などを実証的に考察した研究である。……中国の天文学には暦を制作するという科学的側面と、天体の動きにもとづいて人間社会の吉凶を判断するという占星術――術数的側面の双方が、確かに含まれている。科学的側面は天子が世界の中心として天の動きを正確に察知し、観測によって暦を制作・頒布して日々の生活を安定させるという強い政治的要請のもとに生み出されたものであり、一方、術数的側面は、天と人が本質的に連続していて、天の動きが人間の吉凶に反映するという中国の伝統的天人一体観から生じたものである。本書でとりあげられた後漢の張衡は中国古代天文学を代表する人物である。天文学のみか、地理学や数学についても創見の多い科学的知見の持ち主であるが、いま述べた術数的側面もまた有しているのであって、その意味では思想史的に見てきわめて興味深い研究対象といえよう。いわゆる科学的部分だけをピックアップするのではなく、思想史的事実の全体をふまえることで、逆に中国の科学の特色が照射されることが期待されるのである。
  本書は、髙橋氏の博士学位論文をもとにして補訂を加えたもので、第一章から第四章までは中国の宇宙論の一つである渾天説を中心に張衡の天文学思想を論じ、第五章から第八章までは占術や星座をめぐって張衡の術数的思想をとり上げるという構成をとっている。すなわち、張衡を中心に中国古代の天文思想を数多くの関連資料を博捜して実証的に論じており、宇宙論、天文学、水の思想、星座、占星術など多方面にわたる意欲的な内容となっているのである。重要な成果としては主に次の三点があげられるのではないかと思われる。第一に、張衡の渾天説に関する包括的な考察がある。「渾」の文字のもつ意味や中国古代に流布した「水」の思想の検討は、渾天説という宇宙理論のもつ内容や思想的背景、イメージを浮き彫りにするのに成功している。また、その検討にもとづき、張衡が地球を球体とは考えていなかったとし、従来の地球説の誤りを指摘したことも重要なことと思われる。第二に、『渾天儀』の作者に関する解釈である。『渾天儀』は佚書であり、現在、その佚文によって原書の形が再構成されうるわけであるが、それは張衡自身が著わした部分と、張衡の学説を受け継ぐ後学の手になる部分とに分けられるという。この結論は、詳細に輯められた関係佚文にもとづく分析の結果としてきわめて説得力をもっており、学界に一石を投じるものといえよう。第三に、『海中占』の研究および輯佚がある。張衡の『霊憲』に言及される「海人之占」およびそれに関連する『海中占』なる文献がいかなるものなのか、従来諸説があって一定していなかったが、佚文による内容の分析により、「渤海の海中にあるという三神山の伝承が伝わる燕・斉の方士が作成した天文書」を意味するものであると論断しておられる。これに関連して、同文献につき網羅的な輯佚と校勘を行なっていることも高く評価できよう。これらの成果はいずれも論拠に裏づけられた手堅い論証の結果導き出されたものであり、張衡および中国古代の天文学思想の解明に貢献しうる内容になっていると思われる。本書の評価については各専門諸家の判断にゆだねなければならないが、ただ、これまでの研究は、張衡を科学者と見てその業績の先駆性のみを評価するものや、いわゆる中国科学史の発展の中に単線的に張衡を位置づけるものが多く、必ずしも張衡という人物の全体像をとらえようとしていなかったように思われる。髙橋氏はここで、新たな視点と資料を駆使して張衡の思想・学術の解明に取り組んでおられて、たいへん貴重である。髙橋氏は修士論文ではいわゆるニーダム問題――中国にはなぜ近代科学が発生しなかったのか――をとりあげ、博士論文ではこのように実証的な中国科学思想研究をテーマとされた。地道に研究にとり組み、コンスタントに成果を発表することでこの労作をまとめられたのである。指導にあたった教員として本書の出版を慶び、
ここに序文を書かせていただく次第である。



Astronomical Philosophy of Zhang Heng (張衡)

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