目次
序 章 官人身分制と魏晋南北朝史研究――本書の課題――
第一節 官人身分の概念とその理解――官人身分と位階制度――
第二節 魏晋南北朝史研究と官人身分制
第三節 魏晋南北朝における位階制度研究の現状と課題
(一)唐代の散官・位階研究をめぐって
(二)魏晋南北朝期における位階制度成立過程の研究について
上 編 魏晋南北朝期における官人身分の成立と展開
第一章 官人身分の成立と展開――晋南朝期の免官を手がかりに――
第一節 免官と「免所居官」
(一)晋以前における「免所居官」
(二)南北朝における「免所居官」
第二節 晋南朝の免官の特質
(一)唐律における免官
(二)晋南朝の免官と唐の免官
第三節 晋南朝の免官と官資
第二章 北朝における位階制度の形成――北魏の「階」の再検討から――
第一節 北魏の「階」の機能
第二節 北魏の「階」の特徴
第三節 「品」と「階」
第三章 魏晋南北朝期の官制における「階」と「資」――「品」との関係を中心に――
第一節 「資」の成立とその性格
(一)「資」の成立と郷品との関係をめぐって
(二)北朝の「資」と官品について
第二節 「階」と「品」の関係について
(一)魏晋南朝の「階」と「品」をめぐって
(二)北朝の「階」と「品」
第四章 北魏北齊「職人」考――位階制度研究の視点から――
第一節 北魏時代の「職人」の用例
(一)人事での用例
(二)その他の用例
第二節 北齊時代の「職人」の用例
第三節 北齊の「職人」――兵士としての「職人」――
結 語――北齊「職人」の歴史的意義――
下 編 魏晋南北朝期における官人身分制の諸相
第五章 南朝時代における将軍号の性格に関する一考察――唐代散官との関連から――
第一節 「改革」の前提とその過程について
(一)「改革」以前の将軍号とその実態
(二)新制将軍号と梁十八班制
第二節 「改革」以後の将軍就任者について
第六章 北魏前期の位階秩序について――爵と品の分析を中心に――
第一節 北魏前期の爵制の沿革
第二節 北魏の位階秩序における爵と品
(一)「爵品」をめぐって
(二)郷品と「爵品」の関係と任官について
(三)北魏前期の官人身分の表示について
第七章 北魏における官の清濁について
第一節 太和職令と官の清濁の理解をめぐって
(一)職令の比定と流内・流外の区分について
(二)大和二三年職令佚文にみえる清官の規定について
第二節 唐代の清官について
(一)唐代における清官の規定
a 官品令と清官――「職官表」を手がかりに――
b 職員令と清官――敦煌発見永徽東宮諸府職員令残巻を手がかりに――
(二)唐代における清官の意味
第三節 北魏における官の清濁の意義
付 論 書評 閻歩克著『品位与職位 秦漢魏晋南北朝官階制度研究』
終 章 魏晋南北朝期における官人身分制の確立とその意義
参考文献
あとがき
英文目次
英文要旨
索引
内容説明
【本書より】(抜粋)
本書は中国古代、具体的には魏晋南北朝期における官人身分制の成立と展開、その歴史的意義について考察するものである。本書でいう官人身分とは、国家より付与される位階・官職などを根拠として、官人としての俸禄や服色、及び罪を犯した際の実刑免除といった諸特権を享受することが可能となる身分を指す。一般に歴史学における概念としての身分は、国家による法的な立場によって定められた人々の階層と定義される。かかる身分は通常生まれながらにして決定しているいわば一次的な身分と称すべきものであるが、それに対して官人身分は必ずしもそのような生得的な身分ではない。いわば二次的な身分として位置づけられる。そのためこれまでの身分制に関する研究では、生得的な身分である奴婢、そしてその奴婢と関連する良賤制が論点の中心におかれたのに対して、官人身分が検討課題としてとりあげられることは皆無であった。ところでその官人身分は、中国前近代の官僚機構においては原則として九品官制に秩序づけられる官品ないし位階として具現化する。とくに唐代において、整然と序列化された職事官と散官を中心に構成された位階制度は明確に律令に規定され、以後の中国における位階秩序の基本となっただけでなく、古代東アジア諸国家にも影響を与え、諸国の位階制度構築の際の重要な模範となったのである。そのため、隋唐期は位階制度の重要な画期と認識されて内外の多くの研究者の注目を集め、官僚制研究の一環として一定の蓄積があることは、贅言する必要はないだろう。しかしながら、そのような隋唐時代の位階に関する研究状況に対して、九品官制が中国前近代官制史上はじめて出現し、顕著な発展をみせた魏晋南北朝時代は、唐代でひとつの完成をみた位階制度の形成期であるという点できわめて重要な時代であるにも関わらず、その位階制度を官人身分の表現形態としてとりあげる研究は乏しく、なお考察の余地を多分に残している。……本書では官人身分の成立と形成過程の解明とともに、位階制度を生み出した魏晋南北朝という時代の特性、とくに社会における評価との関連性にも留意しつつ考察することによって、官人身分の歴史的意義をあきらかにしたいと考える。序章において官人身分とその表現形態である位階、散官に関する先行研究をまとめることから、問題の所在の明確化をはかる。そして序章での学説整理をふまえ、上編では「魏晋南北朝期における官人身分の成立と展開」という編名のもとに、魏晋南北朝期において官人身分の表示を担った官品、官資などの機能およびその特質について、主として官僚機構内における意義を中心に考察する。さらに下編では「魏晋南北朝期における官人身分制の諸相」と題して、官人身分の発展とそれを特徴づける諸側面について、官職・位階の社会的評価といった非官僚制的要素を中心に検討する。これらのいわば国家的側面と社会的側面の二方向から複合的に分析することにより、当時の官人身分形成と発展の実態を、より立体的に把握することが可能になるはずである。加えて、位階制度形成における魏晋南北朝期の重要性をあきらかにすることは、古代東アジア世界、とくに日本律令制下における官位制の形成過程を考察するうえでも意義を有する。何故なら、従来の日本古代の官位制研究は、唐代の位階制度を一つの完成形態とみなしがちであったため、唐代以前から模範とされる典章・制度を備えた「先進国」であった魏晋南北朝諸国家のそれについて注目することが少なかったからである。もとよりその理由は、中国ではさておき、日本では魏晋南北朝期の位階制度に関する研究が専著としてまとめられることがなかったことも一因にあろう。本書における考察は、かかる日本古代史における位階制度の問題点について再考をうながすことも企図している。
A Study of the Status System for Officials in the Wei, Jin, and Northern and Southern Dynasties