目次
――蔣廷黻と范文瀾の二つの『中国近代史』、毛沢東‐范文瀾体系からの転換へ
一、蔣廷黻、その人とその中国近代外交史研究
二、蔣廷黻『中国近代史』
三、范文瀾『中国近代史 上冊』
四、蔣廷黻の歴史認識と時局観
第二章 「中国」ナショナリズムの歴史的展開──その歴史意識をめぐって
第三章 「義和拳」の反キリスト教暴動と八ヶ国聯軍──義和団事変研究の意義
第四章 『武訓伝』批判と歴史調査──劇作家陳白塵と『宋景詩歴史調査記』
一、中国近現代史のなかの左翼演劇と陳白塵
二、映画『武訓伝』批判と宋景詩
三、『宋景詩歴史調査記』
第五章 中国の社会主義と知識人──天安門事件期の李澤厚・劉暁波について
一、専制主義
二、農村社会
三、国 家
四、文化・心理
第六章 中国の宗教と近代化
一、台湾の宗教
二、天の信仰
三、儒教と天信仰
四、祖先崇拝
五、道教の宇宙観
六、仏教の受容
七、中国的シンクレティズム
第七章 マックス・ウェーバー『儒教と道教』の太平天国論
第八章 日本研究・私見──「『文化』翻訳の可能性」をめぐって
第九章 私の中国「歴史」研究と「現代世界」
あとがき
索 引
内容説明
【あとがきより】(抜粋)
本書は私が東京外国語大学に勤務するようになってから、機会があって書いてきた文章の幾つかをまとめたものである。翻訳した本の解説として書いたものが中心だが、それぞれ少し手を加えてある。初出の書誌などについては各章最後に「付記」を書いておいたが、各文がどういった経緯で書くことになったかは、第九章で述べた私の研究経歴でも触れられている。私が自らの乏しい語学力をも顧みず、ピーター・バーク『歴史学と社会理論』(第一版、第二版)など幾つかの本を訳し、いささか長い翻訳解説文を書いたのは、それなりの理由があってのことである。一言で言えば、日本の中国史研究、歴史研究への不満があったからである。
……退職後に残された原稿を整理しつつ、何とか形にしたいと思って作業を始めたのだが、思いのほか難渋した。それで、中央研究院近代史研究所に数ヶ月間受け入れていただいて、最後の整理をした。研究院の各図書館の豊富な資料を利用させていただいて、第一章を何とかそれなりの形にすることができた。黄自進先生にはいろいろお世話を頂いた。しかし、その多くの資料を読みながら、我国の細かい個別的な実証史学研究をいくら積み重ねたところで、近現代史の新しい歴史像を打ち出すことは出来ない、と更に確信するようになった。私は、戦後歴史学の中国近現代史研究と、毛沢東-范文瀾通史体系は歴史的にきちんと清算されねばならないと考える確信犯である。その理由の一つは、史料研究と調査がまだまだ不十分だと思うからだが、と同時に、実証研究に枠、あるいは仮説を付与する世界史論、社会科学、哲学、思想史、歴史理論の面でいま一つ自覚的でないからである。中国史ではなく、「歴史」を中国で研究するという自覚が要るのではなかろうか。