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いくさと物語の中世

いくさと物語の中世

人間はいくさ・戦争とどのように関わってきたのか― 「戦後七十年」のいま、中世の文学・芸能といくさの関わりかたから見つめ直す 

著者 日下 力
鈴木 彰
三澤 裕子
ジャンル 日本古典(文学)
日本古典(文学) > 中世文学
日本古典(文学) > 中世文学 > 軍記物語
出版年月日 2015/08/15
ISBN 9784762936197
判型・ページ数 A5・640ページ
定価 16,500円(本体15,000円+税)
在庫 在庫あり
 

内容説明

 

【内容目次】

 

巻頭言:日下 力 

 

刊行の趣旨:鈴木 彰・三澤裕子

 

第一章 十三世紀 ―歴史・宗教・権力との交差―

 

  『平家物語』と鎮魂 ( 佐伯 真一 )

  歴史の簒奪

  ―〈清原氏の物語〉から〈源氏の物語〉へ― (野中 哲照) 

  後鳥羽院と和歌・いくさ (平田 英夫) 

  聖徳太子と合戦―仏教と戦争― (松本 真輔) 

  天下乱逆をめぐる唱導

  ―弁暁草と延慶本『平家物語』― (牧野 淳司)  

  蒙古襲来と軍記物語の生成

  ―『八幡愚童訓』甲本を窓として― (鈴木  彰)  

 

第二章 十四世紀 ―受容と観念化の道程―

 

  残された女の物語―小宰相と曾我兄弟の母― (大津 雄一)  

  延慶本『平家物語』の陥穽

  ―以仁王の乱の描写を対象として― (櫻井 陽子)

  十四世紀守護大名の軍記観 (和田 琢磨)

  中国故事の受容と変容

  ―『太平記』・『三国志演義』から『通俗三国志』へ― (田中 尚子)

 

第三章 十五世紀 ―芸能・学問・武家故実をめぐる動態―

 

  戦いの伝承の劇化

  ―エウリーピデースと世阿弥の場合― (日下  力)

  琵琶法師と芸能の世界

  ―『蔭涼軒日録』と十五世紀の記録から― (清水 眞澄)

  いくさ語りと禅僧 ―『臥雲日件録抜尤』を通じて― (源 健一郎)

  文学史、文化史の中の『大塔物語』 (佐倉 由泰)

  乱世における百科事典と文学

  ―中世後期の武士の教養― (小助川元太)

  黒白争闘 ―『鴉鷺合戦物語』攷― (齋藤真麻理)

  「御台」の気概 ―武家に生きる礼法― (榊原 千鶴)   

 

  第四章 十六世紀 ―記憶と文物の編成―

 

  今川家本『太平記』の性格と補配本文

  ―戦国期『太平記』書写活動の一例― (森田 貴之)

  『吾妻鏡』刊本小考  (小秋元 段)

  統一戦争の敗者と近世都市

  ―三木落城譚を中心に― (樋口 大祐)

  幸若舞が描く「いくさ」 (三澤 裕子) 

  一揆鎮圧

  ―島原一揆の「使者」の一面、福井藩・松江藩― (武田 昌憲)   

 

  第五章 十七世紀―再解釈と定着の諸相―

 

  寛文・延宝期、軍記物語版本の挿絵の表現をめぐって

  ―延宝五年版『平家物語』における頼朝「対面」場面を読む―

                                (出口 久徳)

  天正十五年、豊臣秀吉の阿弥陀寺当座歌会をめぐって

  ―『太閤記』等を端緒に― (田口  寛)

  源氏濫觴の物語 ―十七世紀、多田院周辺― (橋本 正俊)

  十七世紀末の浄瑠璃『源氏烏帽子折』が語った頼朝・義経の源氏再興譚  ―牛若東下りの物語から頼朝出世の物語へ―

                                (岩城賢太郎)

  『伽婢子』と軍書の影響関係をめぐって 

  ―『後太平記評判』『続太平記貍首編』を中心に西鶴に及ぶ―

                                (倉員 正江)

とがき

索引(Ⅰ 書名・資料名/Ⅱ 人名)

執筆者一覧   

 

【「刊行の趣旨」より】(抜粋)

日本中世の社会において、いくさは今の自分自身から遠く離れた時空で起きた過去の出来事というだけではなかった。これからも、身近なところでも起こりうるものとみなされ続けていた。それゆえに、比喩としての力を持ってもいた。また、いくさは、たとえば国や地域や家などの自己認識や歴史意識と幾重にも絡みあうのが常であり、そうした意味でも一人一人の現在と未来に深く関わっていた。そして、中世のあらゆる文学は、そうした歴史的環境のなかではぐくまれ、長く読みつがれたり、作りかえられたり、忘れ去られたりしてきたのである。

二〇一五年の日本社会で生きている私たちは今、戦争・戦場にかかわる直接的な体験と記憶の喪失と欠如という避けがたい現状と向きあい、それを過去への洞察力と批評眼、想像力などによって埋め合わせながら未来を模索しようとしている。いくさ・戦争が日常化した社会とは、また、そうした社会のなかで生きることとは、いかなるものであったのか。中世の文学を読み解くにあたって、これは忘れてはならない問いのひとつであろう。と同時に、それは、中世文学の研究とこの社会の現在や未来とのかかわりかたの要諦を照らし出すことにもなるにちがいない。

◇          ◇          ◇

本論集では、十三世紀から十七世紀にかけての社会的動向を見すえながら、いくさと物語と人間の関わりかたの歴史を見つめ直すことを中心課題としている。中世社会は、たび重なる戦乱とともに推移していった。

創作、改作、享受、保管、書写、抄出、註釈、劇化、絵画化など、中世文学にかかわるあらゆる行為や現象は、いくさや〈武〉にかかわる価値観とどこかで結びついていたと考えられる。そして、こうした問題を掘りさげようとするとき、戦場や乱世のありさま、武士の生態そのものを描くことを主旋律とする物語(軍記物語や武士説話など)やその言説を分析するだけでは不十分である。あらゆる中世文学をこうした観点から読み直す試みが求められる。

人間はいくさ・戦争とどのように関わってきたのか。これから先もこう問い続けていくためのささやかな一歩として、本論集では、いくさにかかわる諸文芸をめぐる特記すべき諸相と向き合い、中世という時代の実態を通時的に把握するための道筋を例示してみたい。長期的な目でみれば、中世の人々に限らず、過去の人々はみな、戦後ではなく、つねに戦間期を生きてきたこと、そして、そうした状況に中世文学も少なからず関与してきたことに今少し自覚的になって、中世のさまざまな物語を読み返してみよう。こうした趣旨のもとで本論集は企画されたのであった。

 

 

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