目次
第一章 歴史資料による医学史の構築
第一節 医書序文に見る医学史観
Ⅰ 問題の所在
Ⅱ 『傷寒論』序から『甲乙経』序文へ
張仲景『傷寒論』序文の分析/王叔和『脉経』序の分析/『黄帝三部鍼灸甲乙経』序の分析
Ⅲ 五世紀以降唐代までの医書序文
陳延之『小品方』序の分析/『難経』の序文と黄帝/初唐における医書序文の分析
Ⅳ 北宋の医書校定の記す序文 Ⅴ 北宋以後の医書序文と張仲景
Ⅵ まとめ―医書序文の記す医学史の意義
第二節 歴代史志書目における医書の範疇と評価
Ⅰ 問題の所在と対象
Ⅱ 歴史的概観〔史志書目中の医書類の枠組みについて/史志書目中の『黄帝内経』について〕
Ⅲ 歴代史志書目における医書類〔「漢志」から「隋志」へ/「隋志」医方類について/「両唐志」の医書分類
について/北宋の書目の分類/南宋の書目の分類/道家目録の中の医書/明清の医書範疇/『四庫全書総
目』の医書観〕 Ⅳ 小結
第三節 中国医書における病の配列と構成
Ⅰ はじめに Ⅱ 漢墓より出土資料における病の体系 Ⅲ 『黄帝内経』の病の体系
Ⅳ 『范汪方』における病の配列 Ⅴ 『小品方』における病の配列
Ⅵ 『諸病源候論』における病の分類と類書の分類 Ⅶ 『千金方』における病の分類と配列
Ⅷ 『三因極一病証論方』における病の配列と構成 Ⅸ 『類経』における病の配列と構成、及び本節のまとめ
第二章 『黄帝内経』の伝承
第一節 問題の所在――『黄帝内経』と中国医学史
第二節 出土医書及び文物から『黄帝内経』へ
Ⅰ 馬王堆出土医書と張家山出土医書について
Ⅱ 『黄帝内経』以前〔『足臂十一脈灸経』と『陰陽十一脈灸経』――十一条の走行ルート/『脈書三』・『脈法』
――脈を使った診断と治療/『陰陽脈死候』と『脈灸経』――脈と陰陽/全身をめぐる経脈へ/循環ルート
の延長/循環ルートの確保/水穀の気/循環規則の獲得/“経脈”と血管の関連について/本節のまとめ〕
第三節 『黄帝内経』所引の古医書について
Ⅰ 問題の所在
Ⅱ 『黄帝内経』所引の古医書〔概観/古医書の内容についての概観/『素問』所引の古医書とその解釈/『霊枢』
所引の古医書とその解釈/『素問』『霊枢』に共通する古医書とその解釈/「九鍼」と「鍼法」/「大要」と
呼ばれる古医書〕
Ⅲ 古医書より考えられる『黄帝内経』の内容のまとまり
第四節 二つの『黄帝内経素問』
Ⅰ 『黄帝素問』と『黄帝内経素問』 Ⅱ 『黄帝内経素問』全元起注本と王冰注本
Ⅲ 王冰の『素問』自序についての分析 Ⅳ 全元起注本の篇次について
Ⅴ 王冰注『素問』の構成について〔養生をその主旨とする諸篇(巻一~三)/治病をその主旨とする諸篇(巻
四~二十四)〕 Ⅵ 「全元起注本」と「王冰注本」の比較考察 Ⅶ おわりに
第五節 『黄帝内経』の再編纂書――『甲乙経』の場合
Ⅰ 『黄帝三部鍼灸甲乙経』について Ⅱ 『甲乙経』の性格と諸本の伝来
Ⅲ 『甲乙経』の検討〔『甲乙経』医統正脈本・明藍格抄本の比較/『素問』新校正注と『甲乙経』諸本本文の比
較『甲乙経』注と『太平聖恵方』/『素問』新校正注と『甲乙経』注の比較〕 Ⅳ まとめ
第六節 隋唐期の『黄帝内経素問』とその引用
Ⅰ 問題の所在と研究方法 Ⅱ 『諸病源候論』の中の『素問』 Ⅲ 『五行大義』所引の『素問』について
Ⅳ 『史記正義』所引の『素問』と『黄帝素問』
Ⅴ 『千金方』『千金翼方』『外台秘要方』の引用する『素問』について Ⅵ 本節のまとめ
第三章 北宋の医書校訂について
第一節 問題の所在 第二節 北宋の医書刊行事業の経過
第三節 校正医書局の設立
Ⅰ これまでの研究と問題の所在
Ⅱ 校正医書の概要〔医書校正の資料/医書校定の時期/校正医書局の医書観/医書校正の担当者〕
第四節 『黄帝内経素問』の校正
Ⅰ 校正医書局以前の『黄帝内経素問』 Ⅱ 『素問』底本の決定 Ⅲ 校正医書の対象文献 Ⅳ 医書校定の姿 Ⅴ 校正の実際 Ⅵ 北宋の医書校定の総括 Ⅶ 考察
附篇1 『黄帝蝦蟇経』とその伝承
第一節 問題の所在 Ⅰ 『黄帝蝦蟇経』とは何か Ⅱ 『蝦蟇経』の全体像
第二節 『黄帝蝦蟇経』の版本と抄本について
Ⅰ 衛生彙編本『黄帝蝦蟇経』跋文の検討 Ⅱ 『黄帝蝦蟇経』臨模本の書誌 『蝦蟇経』のテキスト
Ⅲ 蝦兔圖隨月生毀日月毀避灸判法第一の検討〔文章の書式と表について/『蝦蟇経』における人気の記載/
『蝦蟇経』における人神の記載/『蝦蟇経』図像の成立に関して/第一のその他の部分について〕
Ⅳ 終わりに
附篇2 本草覚え書き
第一節 本草の認識 Ⅰ 問題の所在 Ⅱ 「本草」についての先行する論考
第二節 歴代の本草 Ⅰ 漢代の「本草」 Ⅱ 六朝の「本草」〔道教目録と「本草」/『本草経集注』の成立〕
Ⅲ 隋唐の「本草」〔医術本草」の時代/『新修本草』の選定/薬対・薬録・別録〕
第三節 本草と道教 Ⅰ 仙薬と医薬 Ⅱ 宋代の「本草」と方薬
Ⅲ 宋代以降の「本草」と道教 Ⅳ 医学と道教と「本草」と
後序として/附録CD解説/ 索 引
内容説明
【序にかえて】より(抜粋)
本書は、中国で最も長くは“医書”と呼ばれてきた書物を対象とする。この“医書”という名称は歴代の史志書目の検討から得た。あくまで、中国固有の“医学(と呼ぶにふさわしいかどうかも考えなくてはならない)”を、中国学独自の視点で眺め、その本来の姿を探るための第一歩である。中国の伝統的な医書の取り扱いのために必要なことは何であり、そこから何が明らかになるのか、或いは何が明らかにならないのかを明確にしなければならないと考えていた。
第一章で、医書の序文という歴史資料から、医学史が伝統の中でどのように考えられてきたのかを見る。
次に目録学的な見方によって史志書目から医学史の枠組みを考える。さらに医書の「目次」を対象に、中国医書の病に関する分類と排列について考察した。
第二章で、『黄帝内経』と称する書物の伝来を考えることにした。現存最古の図書目録である『漢書』藝文志・方技略に記されている書の中で、唯一書名として現存している『黄帝内経』とはいかなる書物か。それは、その書を必要とする学術の中で長く中心軸として位置をしめてきた、基本の書であることから、その姿と変遷とを知ることは、中国伝統医学の本質に関わり得る。そこで、出土資料から当該書が形成される過程をまず考察した。『黄帝内経』所収の古医書について考察し、時代をくだって、然るべき時代の要請に従って時々に改編を受けた事実を踏まえ、実際に残っている資料からその復元を試み、さらに隋唐期における『素問』のあり方を考察する。
第三章で取り上げるのは、北宋の医書校訂についてである。現在に伝わる主要な医書が校定され、その形を得たという意味で、医学史上大きなエポックであるが、その詳細を明らかにすることを試みた。
最後に附篇として、「黄帝」を冠した禁忌の書である『黄帝蝦蟇経』の書誌と内容を記した。史志書目に収められた書名が異なれば、類似の書名であっても別書と扱わねばならない例を示す内容でもある。
さらに、湯液に使用する薬材を記した「本草」の流れを示した一篇を収める。書籍の伝承を簡明にまとめたことに意義があり、「経方書」の歴史を概観した部分でもある。