目次
序 章 使用テキスト一覧
第一章 雑劇から南曲へ
第一節 元雑劇テキストの明代以降における継承 第二節 明刊雑劇テキストの南曲への継承
第二章 『西廂記』雑劇における継承
第一節 弘治本『西廂記』について
第二節 『董西廂』から『西廂記』への継承――曲辞と構成の側面から
『董西廂』『西廂記』内容対照表/『董西廂』『西廂記』曲辞対照表
第三章 南曲テキストにおける継承と展開
第一節 明清刊散齣集について
第二節 『琵琶記』テキストの明代における変遷――弋陽腔系テキストを中心に――
『琵琶記』末尾部分対照表/弋陽腔系テキストにおける『琵琶記』収録演目一覧
第三節 『白兎記』テキストの継承――戯曲テキストの読み物化に関して――
『白兎記』収録演目一覧
第四節 『玉簪記』について 『玉簪記』収録演目一覧・秋江哭別対照表
第四章 内容と役柄の変遷をめぐる問題
「浄」考――役柄の変遷
終 章 散齣集収録演目一覧
あとがき・索引
内容説明
本書は、中国演劇の元代以降の動きについて、戯曲テキストを精査することにより、その継承と展開を明らかにしようとしたものである。明代以降には、南方を中心に弋陽腔系諸腔と崑山腔とが流行するが、ことに変化の幅が大きく、後世への影響も少なくない弋陽腔系諸腔のテキストの変化に着目し、舞台にかけられる実演としての演劇の変化だけでなく、演劇が文字化され、読み物として受容されていく過程にも目を向けて、調査・検討をおこなった。第一章では、現存最古のテキストである元刊雑劇三十種に含まれる演目が、実演による継承ではなく、テキストによる継承がなされていたことを明らかにした。わが国においても、例えば能などで、江戸時代に一旦途絶えた演目を現代に復曲するということがあるが、これに類することが行われていたことを予想される。第二章では、中国演劇の最高傑作の一つ『西廂記』雑劇に関して考察した。
『西廂記』雑劇の現存最古のテキストである弘治本が、評価されなかった原因こそが案頭の戯曲テキストとして原始的形態の特徴であり、戯曲の読物化の流れを示すものであることも明らかにした。第三章では、明代に成立した作品三つを取り上げた。第四章では、中国演劇史の中で、役柄の性格が変化していったことを、特に「浄」という役柄を取り上げて考察した。悪役というマイナス要因を持つキャラクターをどのように捉えるかは、時代や文化によって違いが生じるものであり、中国伝統劇においても、特徴的な変化が見られることを示しえたと思う。