目次
総序 宋代の財政構造
宋代財政の構造的特質/宋代上供の財政運用/銭貨の循環と課利の課税構造
前編 宋代上供の財政構造
第1章 宋代上供の構成
宋代上供の構成〔上供歳額と費目構成/宋代上供の構成の特質〕
宋代上供の定額〔北宋時代の上供米定額/上供米定額と両税苗米の実徴額〕
上供紬絹と正税紬絹〔北宋時代の上供紬絹と正税紬絹/北宋時代の紬絹の歳収動向/南宋時代の上供紬絹・
正税紬絹と折帛銭〕
第2章 上供銭貨の諸系統―北宋時代―
北宋前半期における銭貨の上供
新鋳銭の上供〔上供新鋳銭の定額/内蔵庫・左蔵庫間の銭貨の流れ〕
租税系上供銭〔租税系上供銭の定額/租税系上供銭の費目構成/租税系上供銭の上供率〕
北宋後半期の上供銭貨〔朝廷封椿銭物としての常平銭/無額上供銭の創設〕
第3章 上供銭貨の諸系統―南宋時代―
南宋初期の「上供銭」〔“祖宗の正賦”としての「上供銭」と経制銭・経総制銭/南宋時代の租税系上供銭/
「上供銭」と呼ばれる租税系上供銭〕
南宋時代の上供銭貨の諸系統〔上供新鋳銭/租税系上供銭/無額上供銭/代替上供銭/科買上供銀銭〕
第4章 上供財貨の再分配―北宋の封椿と財政運用―
糴本の一時保管措置としての封椿
中央諸官司における封椿財貨の運用〔中央政府機関―三司・尚書戸部・中書省・枢密院―/
財庫―内蔵庫・元豊庫・元祐庫―/三司直属の財務四官司―榷貨務・市易務・司農寺・群牧司―〕
地方官司における封椿財貨の運用〔四監司―発運司・転運司・提刑司・安撫司―/
軍務・治安系路官―経略司・経略安撫司・保甲司―/財務系路官―糴便司・提挙茶場司・解塩司・銭監―〕
封椿財貨の諸系統〔元豊官制改革と封椿財貨の管理系統/朝廷封椿銭物と転運司の財用〕
前編総結
後編 宋代課利の課税構造
第1部 宋代榷塩の課税構造
序説 唐・劉晏の塩法と宋代塩茶の通商法
劉晏塩法の課税構造/呉兆莘・曾仰豊両氏による劉晏塩法の評価/戴裔煊氏の宋代鈔塩制研究と“間接専売“説/
幸徹・郭正忠・佐伯富氏らの宋代通商論/課税制度としての宋代通商法の評価/劉晏塩法は
宋代通商[卸売制]の原型
第5章 西北塩(解塩)の販売体制と課税方式
北宋前半期の官商並売体制(国初~慶暦8年)〔国初の産塩と三路販塩体制/通商解塩区と沿辺入中〕
范祥の陝西塩政改革〔范祥改革による陝西解塩の販売体制/熙豊期における通商[鈔引制]の運用〕
解池水災後の販塩体制と課税方式〔東北末塩鈔と解塩新鈔―元符元年(1098)~崇寧3年(1104)―/解池
修復と通商[鈔引制]〈新旧換鈔〉方式―崇寧4年(1105)~大観4年(1110)―/蔡京復職と「政和新法」
―大観4年(1105)~宣和7年(1120)―〕
第6章 淮南塩・両浙塩の販売体制と課税方式
北宋前半期における淮南塩の生産と供給〔国初の淮南塩官売体制/淮南官売塩の収買価格と販売価格/淮南通商塩の入中〕
北宋後半期における淮南・両浙官売塩と通商塩〔東南塩の塩課収入と塩利の分配/淮南塩の「減価」販売と塩本銭問題/北宋 時代の両浙塩〕
蔡京新鈔法と東南末塩歳収〔第一期 東南通商塩の鈔法改革と流通拡大―崇寧元年(1102)~大観4年(1110)―/第二期 塩価 の改定と東南塩官売の廃止―大観4年(1110)~北宋末年―〕
南宋時代の通商淮浙塩〔紹興年間の産塩伸張と歳課の増収/乾道以降の淮浙塩歳収と鈔法の運用〕
第7章 京東塩・河北塩・河東塩・四川塩の販売体制と課税方式
京東塩の課税構造〔北宋前半期の京東塩/熙寧10年(1077)、京東路解塩通商区州軍の官売化/元豊3年(1080)の京東塩官売 化/元祐の通商復活と蔡京「新鈔法」下の京東塩〕
河北塩の課税構造〔北宋前半期の河北塩/北宋後半期の河北塩〕
河東塩の課税構造〔北宋前半期の河東塩/北宋後半期の河東塩〕
四川塩の課税構造〔北宋時代の四川塩/南宋時代の四川塩〕
第8章 福建塩の販売体制と課税方式
北宋福建塩の販売体制〔北宋福建の産塩と通商「卸売制」/「海倉」鈔塩と福建塩の入中/元豊初年の福建路塩法改革/北宋 後半期の福建塩〕
南宋福建の塩課と分配〔南宋福建の産塩と上四郡綱塩/福建路の塩課収入と転運司歳計/淳熙以降の福建塩〕
第9章 広南塩の販売体制と課税方式
北宋時代の広南塩〔広南塩の生産・販売体制/広南塩の塩課歳収と転運司歳計〕
南宋時代の広南塩〔南宋初期の官商並売体制(建炎4年~紹興8年)/東西両路通商[鈔引制]運司歳計方式(乾道4年~9年)/ 広西路の官売復活(淳熙元年~9年)/広西路の通商復帰(淳熙10年~)〕
第2部 宋代榷茶・榷酤・商税・坑冶等の課税方式
第10章 宋代榷茶の課税構造
北宋前半期の官商並売体制〔国初の産茶・収買・販売体制/禁榷・通商並用体制における歳収と茶利の分配/嘉祐通商法と 茶利歳収〕
北宋後半期・南宋初期における茶利の分配〔福建臘茶の禁榷と通商/蜀茶の禁榷 熙寧10~紹聖元年(1077~94)/蔡京の 茶法改革と茶利の分配/南宋の茶法と茶利の分配〕
第11章 宋代榷酤の課税構造
宋代榷酤の諸方式〔禁榷[監官酒務制]〈官醸官販〉方式/買撲[分課制]/その他の酒法〕
宋代酒税の分配と地方財政〔酒課付加税の科徴と酒課の分配/「贍軍酒庫」の創設と酒課の分配〕
第12章 宋代商税の課税構造
宋代商税の課税体系〔宋代商税の課税方式/商税務の設置と運営/商税科徴の特例措置〕
宋代商税の歳収と分配〔宋代商税の科徴と「祖額」立定/宋代商税の課額と増徴方式/宋代商税の歳収と分配〕
第13章 宋代榷礬・坑冶・市舶の課税構造
宋代榷礬の課税構造〔禁榷[官売制]と通商[卸売制]/通商諸州礬の収買・博買価格と官売礬の散売価格/北宋後半期に おける榷礬歳課の増収〕
宋代坑冶の課税構造〔禁榷[官収制]〈二八抽分方式〉/坑冶の買撲[分収制]/鉱産の管理と使途/宋代坑冶の歳課〕
宋代市舶の課税構造〔宋代の市舶制度と香薬/香薬の上供と入中償還/宋代香薬の課利歳収〕
後編小結
宋代課利の課税構造―分配方式・課税方式一覧―/宋代の財政構造概念図
後 記/事項索引/中文提要
内容説明
【本書より】(抜粋)
宋代両税は唐・建中の両税と課税原理を同じくするが、課税対象や課税基準など課税体系全体を見ると、多くの点で異なっている。中でも唐代両税において銭納制の両税銭の折納であった紬絹糸綿が、宋代には現物納制の夏税正税に転換したことは、重要な相違点である。
本書は前編において、一元的な会計制度が支える「量出制入」の財政原理に基づき、歳出・歳入両部門を結合した「上供」の財政構造を明らかにし、後編において、「賦税」(租税系上供銭)以上に銭貨調達に重要な役割を果した「課利」の課税構造――その課税対象・徴税方式・税収の分配方式――を明らかにする。
宋代の「課利」は塩・茶等の専売制度として、主にその販売方式を中心に研究されてきたが、賦税以上に重要な政府の銭貨収入であるにも関わらず、宋代課利の全分野を対象とする課税制度としての分析は殆どなされていない。本書では宋代「課利」の課税構造を分析することにより、歳出・歳入両部門を結合して宋朝の財政運用を支えた大規模な銭貨の循環運動を解明する手がかりとしたい。(前言)より
これまでの研究が専売概念に基づいて塩・茶等の販売方式を理解する方法をとったことが、宋代課利の研究を幾つかの点で制約することになったと筆者は考える。宋代の課利について本書では、塩税・茶税だけでなく酒税・商税から礬・香・市舶にいたるほぼ全分野の課税構造を明らかにすることができた。宋朝財政の収入部門における銭貨の調達に、課利の分野が決定的に重要な役割を果したことは論証できたと思う。宋朝の財政構造において、塩税の場合、禁[官売制]・通商[収算制][卸売制]など転運司・州県が徴収権をもつ税収入は、「漕計」「留州」として地方経費に充当され、その全額が地方の官員・兵士の請求に支用された。
これに対し沿辺入中と結合した通商[鈔引制]は、課利収入は地方官司を経由せず直接中央政府の収入となり、これは主に北辺の軍糧備蓄資金「糴本」として支用された。宋代課利は、巨額の銭貨収入を官員兵士の人件費に充当する地方経費と、北辺の軍糧調達「糴本」に充当する中央会計とに大きく二分する分配構造をもった。
宋代の財政構造については、本書「総序」にその概略を提示し、前編「宋代上供の財政構造」の各章において、上供米・上供紬絹・上供銭貨の収支構造を分析するとともに、「入中」「封」という財政運用が、収入・支出両部門を媒介する巨額の銭貨の循環に支えられていたことを論証した。この銭貨の循環は、後編「宋代課利の課税構造」の各章で見たように、中央・地方官司が収取した各種の課利及び課利増徴付加税の収入に支えられていた。北宋後半期から南宋前半期にかけて、宋朝の財政収入は総体として、直接税としての両税及びその付加税の収入よりも、間接税として収取した課利及び課利増徴付加税の収入の方が上回り、特に銭貨の徴収においてその傾向が顕著であった。後編で分析した課利の分配方式・課税方式を管轄官司・税目ごとに整理し、前編で明らかにした直接税を中心とする銭貨の循環構造を組込んだ宋代財政構造の概念図を図19に示した。(後記)より