目次
第一章 文字・表記史研究の目的
第二章 文字・表記史研究の術語
第三章 書記体の分類と非陳述的書記体
第四章 書記教育史としての文字・表記史
第二編 文字・表記史の原理
第一章 国語文字・表記史の概観
第二章 文字・表記史と表記史資料の普遍性・特殊性
第三章 仮名表記史の原理
第四章 表記史的現象としての表記習慣
第五章 文字・表記史と誤記・誤写
第三編 平仮名史・平仮名文表記史の研究
第一章 平仮名書きの意味
第二章 平安・鎌倉時代における平仮名字体の変遷
第三章 片仮名資料に見える草体仮名の性格
第四章 平仮名書きいろは歌の成立と展開
第五章 「平仮名らしさ」の基準とその変遷
第六章 定家の表記再考
第七章 異体仮名使い分けの発生
第八章 異体仮名使い分けの衰退
第九章 平仮名表記史資料としての書道伝書
第四編 漢字文表記史の研究
第一章 漢文和化の原理Ⅰ――中・近世の文書文体における漢文的要素の和化
第二章 漢文和化の原理Ⅱ――助詞の仮名表記
第三章 候文の特質Ⅰ――「候」字の機能
第四章 候文の特質Ⅱ――倒置記法の簡略化とその原理
第五章 国語漢字書記における楷行草
第五編 印刷と文字・表記史
第一章 印刷時代における国語書記史の原理
第二章 近世整版印刷書体における平仮名字形の変化
第三章 漢字仮名交り文の成立
第四章 漢字仮名交り文要素としての振り仮名
第六章 文字意識史と文字研究史
第一章 文字研究史再考
第二章 鈴屋の文字意識とその実践
第三章 気吹舎の文字意識とその実践
第四章 近世における漢字研究の方法
第五章 近世いろは歌研究史
第六章 「倭仮名字反切義解」の成立年代
第七章 テキスト意識の展開
初出一覧・索引(書名・資料名索引、人名索引、文字・表記史研究用語索引)・ 後書き
内容説明
これまで歴史的記述の試みられることのなかった国語「文字」・「表記」研究に、通史的見取り図を提示。
今後の国語学研究に新たな地平を拓く斯界待望の書。国語学・国文学研究者必備の基本図書である。
【本書】より
本書は、複線的、多層的、多段階的という特徴を有する国語文字・表記史を、俯瞰的に把握する試みである。
複線的であることは、その出発点である漢字の受容において既に表意的・表音的の両方法を併用して以来、近代初期まで一貫する国語文字・表記史の最大の特質であり、多層的であるとは、現代においても万葉仮名
や宣命体さえ使用される場面がありうることにも端的に表れているように、発生の時期や背景を異にする様々な文字・表記の様態を共時的に併存せしめてきたことであり、多段階的であるとは、社会的変化や技術史的変化等に伴って、何度にもわたって文字・表記のあり方を大きく変質させてきたことを指している。
こうした特質を有する国語文字・表記史は、従って、多次元的で複雑な様相を示し、個人の研究の範囲でその全体像を精緻に記述することの極めて難しい対象物である。敢えてそれを行おうとすれば、具体的な一つ一つの事象の記述については、大雑把の誹りを免れることは出来ないであろうが、全体像への視点を予め持つことは、研究の正しい進展のためにはどうしても必要なことである。著者が敢えてそれを目標としてきた第一の意図はそこにある。(緒言より)
本書の扱う時代と分野は、国語文字・表記史が中国語とのバイリンガリズムから脱して独自の道を本格的に歩み始めて以降、西洋的文字文化の洗礼を受けて国語文字・表記史が単線的なものになっていく以前の、国語文字・表記史が最もその特色を顕著にしていた部分であり、平仮名と漢字という現代国語表記の中核をなす文字とその表記法については扱うことが出来た所であって、ひとまずここまでの成果をまとめ、諸氏の批正を乞うことは出来る段階になったかと考えている。言わば、見取り図作成のための見取り図に過ぎないとの誹りも免れ得ない段階のものではあるが、それでも少なくとも今後の研究の叩き台としての意味合い位はあろうという思いで公にするものである。(後書きより)