目次
序 章 春秋戦国貨幣研究と課題
一 中国における研究
二 日本における研究
三 研究の課題と方法
第一章 戦国貨幣概述
一 斉国貨幣
二 燕国貨幣
三 三晋貨幣
四 楚国貨幣
五 秦国貨幣
第二章 刀銭と布銭の生成と展開
一 刀銭、布銭の流通時期
(一)刀銭の起源と流通時期/(二)布銭の起源と流通時期
二 刀銭、布銭の流通範囲
(一)刀銭の流通範囲と発行主体/(二)布銭の流通範囲と発行主体
三 刀銭、布銭の性格
(一)刀銭の生成―尖首刀の発行主体/(二)刀銭の展開過程/
(三)布銭の生成―空首布の発行主体/(四)布銭の展開過程
第三章 斉大刀の性格
一 斉大刀の型式と文字
二 斉大刀の流通時期
(一)従来の編年/(二)流通時期の推定
三 斉大刀の流通範囲と発行主体
第四章 橋形方足布の性格
一 橋形方足布の型式
二 橋形方足布の流通時期
(一)従来の編年/(二)標準貨幣の設定/(三)標準貨幣以外の貨幣の編年
三 橋形方足布の流通範囲と発行主体
(一)流通範囲/(二)発行主体
第五章 尖足布・方足布の性格
一 尖足布、方足布の整理
(一)文字釈読の混乱と矛盾/(二)地名の位置比定の不確定性/
(三)出土地の分布にもとづく地名同定と位置比定
二 出土地と地名との関係
三 同一地名貨幣の多様性
(一)形態の多様性/(二)字形の多様性
むすびにかえて―鋳型の問題
第六章 楚貝貨の性格
一 楚貝貨の型式と文字
二 楚貝貨の流通時期の問題
三 楚貝貨の流通範囲と時期の関係
(一)楚の東方進出と楚貝貨の流通範囲/(二)楚の東遷と楚貝貨の流通範囲
四 楚貝貨の宝貝との関係と貨幣としての性格
(一)宝貝の性格/(二)楚貝貨と宝貝との関係
第七章 円銭の性格
一 円銭の起源について
二 円銭の流通時期
三 円銭の流通範囲と発行主体
(一)三晋、両周諸国円銭の流通範囲と発行主体
(二)秦国円銭の流通範囲と発行主体
(三)斉国、燕国円銭の流通範囲と発行主体
終 章 春秋戦国青銅貨幣の形態の規定要因
一 青銅貨幣の生成―春秋時代
(一)布銭(空首布)/(二)刀銭(尖首刀)
二 青銅貨幣の展開―戦国時代
(一)布銭(平首布)/(二)刀銭(明刀、直刀、斉大刀)
(三)貝貨(楚貝貨)/(四)円銭(円孔円銭、方孔円銭)
三 青銅貨幣の統一―秦漢時代
参考書目・研究者人名索引・貨幣銘文索引
中文摘要 春秋戦国時期青銅貨幣的出現与発展・あとがき
内容説明
【序章「研究と課題」より】(抜粋)
個別の貨幣に対する研究態度として、中国と日本ではかなり相違がみとめられる。中国では考古資料を用いるにしても、文献史料を信頼して最初から両者を結びつけようとする傾向が強い。これは貨幣研究に限られたことではなく、出土文字資料研究一般に見られる傾向である。これに対して日本では、関野雄氏に代表されるように、貨幣も純粋に考古資料としてあつかおうとする態度がみられる。とくに先秦貨幣に関しては文献の記述が絶対的に欠如しており、また残された史料の信頼性も低く考古学への依存度は必然的に高まることになる。
本書では貨幣を考古資料としてあつかい、まず基礎作業として考古学的に年代、流通範囲を確定して行く。とくに考古資料は年代が確定できなければ資料的価値は半減し、歴史研究にも生かすことはできない。先秦貨幣は埋蔵物として出土することがほとんどで年代の確定はきわめて困難であるが、極力考古学的な編年を試みる。流通範囲の確定に関しては出土位置の確認できる考古資料の独壇場と言ってよい。しかし、考古資料の出土は偶然性に支配されるため出土分布や流通範囲が必ずしも正確とは限らない。発見された場所に有ると言えても未発見場所に無いとは言えないからである。それ故、考古学的な推定の後、文献史料やその他の材料を用いて検証を行うことに務めた。…中国では貨幣の発行は国家が行うものとの観念から、発行主体について注意が払われることは少ない。しかし、貨幣は歴史的に見て国家が発行するものとは限らない。中国でも統一国家である漢朝においてすら、鄧通という個人に鋳銭権を与えたり、民間での貨幣の鋳造を許可したりしている。個別貨幣の性格を究明していくには厳密に発行主体を明らかにしていくことがどうしても必要である。本書ではこの発行主体の究明にとくに意を用いた。
本書の研究目的は単に個別貨幣の性格を究明するだけではない。中国古代においていかにして青銅貨幣が出現し展開して行ったかを系統的に明らかにし、春秋戦国時代の貨幣経済の実態を時間的、空間的に把握するためである。そして、それによって文献史料からだけではうかがい知れないこの時代の社会、都市および国家の実像に迫ることができればと考える。