内容説明
『十抄詩』は、中唐・晩唐の詩人(五代に及ぶ李雄も含む)二十六家(劉禹錫・白居易・温庭筠・張籍・章孝標・杜牧・李遠・許渾・雍陶・
張祜・趙嘏・馬戴・韋蟾・皮日休・杜荀鶴・曹唐・方干・李雄・呉仁璧
・韓?・羅鄴・秦韜玉・羅隱・賈島・李山甫・李群玉)および新羅の詩人四家(崔致遠・朴仁範・崔承祐・崔匡祐)、あわせて三十家、各家十首の七言律詩、すべて三百首を選録する詩集である。総詩数三百としたのは、「詩三百」という『詩經』の詩篇所収概数に倣ったのであろう。この『十抄詩』の注釈書が『夾注名賢十抄詩』である。『夾注名賢十抄詩』
は、撰者の自序「夾注名賢十抄詩序」の末尾に「月巖山人神印宗老僧 子山略序」と記し、撰者が子山という朝鮮密教の神印宗の僧であることが知られる。また「夾注名賢十抄詩序」に「本朝の前輩鉅儒、唐室の群賢の全集に拠り、各おの名詩十首を選び、凡て三百篇。命け題して十抄詩と為す」とあり、『十抄詩』が朝鮮の学者によって唐人の別集から録出された名詩選集であり、所収詩人おのおの十首を選録したゆえ「十抄詩」と命名したことが分かる。『十抄詩』は各巻十五家を収録する二巻本であるが、『夾注名賢十抄詩』は各巻十家を収める三巻本に改編しているに過ぎず、両書の間で選録作品の出入は全く見られない。『十抄詩』には唐・五代詩九十九首や新羅の崔致遠六首の佚詩が伝存しており、また既存の作品であっても宋代以降のテキストとは異なる古い系統の本から選録されており、作者や詩題・本文に異同が甚だしいことから推測して、唐(九〇七年亡)
・新羅(九三五年亡)の末代より遠く隔たらない高麗(九一八~一三九一)前期に編せられたと考えられる。『夾注名賢十抄詩』も成立時期の確定は困難であるが、高麗後期、西暦一三〇〇年を挟む前後数十年の間に撰せられたと考えられる。『夾注名賢十抄詩』はその注にも貴重な佚文の引用がしばしば見られ、両書は、中国文学及び朝鮮漢文学の研究資料として甚だ高い価値を有している。また、日本の大江維時『千載佳句』は、唐詩の佚句や異文を伝える貴重資料であるが、唐人の作品のみならず新羅詩人の作を収める点において『十抄詩』と同様であり、かつ共通する詩を採録する事例も見える。『十抄詩』『夾注名賢十抄詩』は、東アジア漢字文化圏という広い視野で漢詩を考察する上において、極めて重要な資料を提供している。
【内容目次】
口絵・凡例・本文影印 十抄詩(北京大学所蔵)/
夾注名賢十抄詩(陽明文庫所蔵)
解題篇 解題 『十抄詩』・『夾注名賢十抄詩』の編撰
『十抄詩』・『夾注名賢十抄詩』に存する佚詩
『十抄詩』・『夾注名賢十抄詩』の選録の底本
『十抄詩』・『夾注名賢十抄詩』
と大江維時『千載佳句』との関連性
北京大学図書館所蔵整版本『十抄詩』
陽明文庫所蔵『夾注名賢十抄詩』
不鮮明・欠損箇所一覧/異体字一覧
資料篇 『十抄詩』・『夾注名賢十抄詩』所収詩人・作品一覧/
参考書影
跋/『十抄詩』・『夾注名賢十抄詩』詩人名・詩題索引