内容説明
【本書より】
複雑化した李岩論争を、現在にいたるまでの経過を整理し、今後の研究に資する意図をもって叙述する。
著書の題名に李岩を冠せず、『李公子の謎』としたのは、李岩が実在の人物か否かに収斂されるものの、李公子の呼称が様々なニュアンスで伝承され、かつ様々なジャンルを経過したため、史実と創作の境界が不明となっていることによる。
【内容目次】
一 明末の流賊と李公子伝承
1.流賊の発生と展開
2.政権(「仁義」の世界)の樹立と李公子伝承の発生(崇禎14年〈1641〉以降)
二 崇禎末、清代初期の李公子像
A 明朝倒壊時(崇禎17、順治元年、1644)の李公子原像
1.李公子=李自成(『華夷変態』)
2.李公子=李岩(『新編勦闖通俗小説』)
3.李公子=李栩(順治『潁州志』)
4.三人の李公子像の異同
B 清代初期の李公子=李岩像の展開
1.『定鼎奇聞』と『樵史通俗演義』
2.呉偉業『綏寇紀略』
三 清代中期、李公子=李岩説の公認と反発
A 『明史』流賊伝の成立
1.『明史』について
2.毛奇齢『後鑑録』と『明史』流賊伝
3.整理された李公子=李岩像
B 禁書体制と李公子=李岩像の拡大
1.四庫全書と禁書・文字の獄
2.禁書と明末清初の野史
3.禁書体制と李岩伝承の拡大
4.紅娘子伝承(物語)の展開
C 李公子=李岩説への反発
1.河南開封府杞県
2.南直隷鳳陽府潁州
四 清末・民国期の李公子像
1.乾隆禁書体制の弛緩と禁書の復刻
2.明末を題材にした小説の盛行
3.郭沫若『甲申三百年祭』(1944)とその波紋
五 中華人民共和国における李岩論争
A 1978年までの李岩論―実在の人、李岩をどのように評価するか
B 1978年以降の李岩論争―李岩は烏有先生か、実在の人か
1.顧誠、欒星の主張と趙国光、陳生璽の反論
2.歴史小説家・歴史研究者としての姚雪垠
3.河南省を中心とした李岩論争
参照文献・史料