目次
序 章 西村天囚の生涯と著作
第一章 遺墨に見る漢学の伝統──前田豊山・西村天囚の書──
前田豊山「立誠」──種子島に尽くした誠──/「百事無能」──生涯を掛けた種子島氏授爵──
/「暗香浮動」──ほのかに漂う梅香のように──/西村天囚「金陵懐古」──天囚が懐古したも
のとは──/「君父師友」──前田豊山との記念碑──/「長生殿裏春秋富」──長寿と繁栄を祈っ
て──/「與君子游」──君子に感化される──/「仁道不遐」──「類書」を経由した揮毫──
/「人生無根蔕」──退職の年に示す気概──/「蓬生麻中不扶而直」──天囚の絶筆か──
第二章 印章に刻まれた思想──西村天囚旧蔵印の世界──
西村天囚旧蔵印の全容/蔵書印と碩園記念文庫本/字・号に関する印/思想と著作と印章と
【附録】 西村天囚旧蔵印の篆刻者
第三章 西洋近代文明と向き合った漢学者──西村天囚の「世界一周会」参加──
第一回世界一周会と当時の世界情勢/第二回世界一周会の概要/西村天囚の見た「世界」/「日本」
の再発見/成功の要因とその後の世界一周会/漢学者と西洋近代文明
第四章 西村天囚『欧米遊覧記』と御船綱手「欧山米水帖」──明治四十三年「世界一周会」の真実──
世界一周会と御船綱手/世界一周会の旅程/「欧山米水帖」全七十二枚の概要/西村天囚の「題簽」
と「題辞」/絵画における「真実」とは
第五章 大阪市公会堂壁記の成立──近代文人の相互研鑽──
中之島公会堂の誕生/岩本栄之助の寄附と新公会堂の建設/西村天囚の「大阪市公会堂壁記」草稿/
草稿批評と壁記成立の経緯/切磋琢磨する文人たち
第六章 白虹事件と西村天囚
「筆禍」の歴史/白虹事件と「白虹貫日」の原義/故事成語としての「白虹貫日」/弁護団の釈明/
西村天囚の宣明文
第七章 鉄砲伝来紀功碑文の成立
西村天囚と鉄砲伝来紀功碑/種子島鉄砲伝来紀功碑に基づく釈読/『碩園先生文集』所収「鉄砲伝来
紀功碑」との比較/鉄砲館所蔵「鉄砲伝来紀功碑」草稿の解析/碑文に込めた天囚の思い
第八章 懐徳堂の孔子祭──近代日本の学問と宗教──
懐徳堂と孔子/「懐徳堂にキリストと孔子の像を」/重建懐徳堂と孔子祭/孔子没後二千四百年祭の
実態/その後の孔子祭
第九章 幻の御講書始──「詩経大雅仮楽篇講義」──
種子島で発見された講義草稿/天囚と御講書始/御講書始の草稿/五種草稿の関係/「詩経大雅仮楽
篇講義」の全容/『詩経』大雅仮楽篇の意義
【附録】草稿A「詩經大雅假樂篇講義艸案」/草稿B「詩經大雅假樂篇講義擬稾」/草稿E「漢書進
講大要」/草稿C「漢書進講大要」
第十章 未完の大作『論語集釈』
天囚自筆草稿『論語集釈』の発見/「折中」「參看」「異説」「私案」の意味/近代日本の『論語』解釈
第十一章 近代文人の知のネットワーク──西村天囚関係人物小事典──
天囚関係書簡(懐徳堂関係者/朝日新聞関係者/学界関係者/文人・ジャーナリスト/政治家・実業
家・軍人/薩摩・種子島関係者/宮内省関係者)/関西文人たちとの交流/晩年のネットワーク
(関東大震災と「延徳本大学頌贈名簿」/天囚の逝去と『碩園先生追悼録』)
終 章 「文会」の変容と近代人文学の形成
結 語
事項索引/人名索引/中文要旨/中文目次
内容説明
「天声人語」の名付け親として知られる西村天囚は慶応元年(1865)、種子島の生まれ。東京大学古典講習科に学んだ後、その漢文力を活かして大阪朝日新聞で活躍した。当時の同僚には、夏目漱石、内藤湖南などがいる。
天囚は、大阪の歴史と文化を学ぶ中で、江戸時代の大坂学問所「懐徳堂」に共感し、その顕彰と復興を目指す。大正5年(1916)からは、再建された懐徳堂の教壇に立ち、京都帝国大学にも出講して漢文を教えた。
大正10年には宮内省御用掛を拝命して、東京に移転し、皇室や宮内省関係の文書の起草に尽力する。
その著書は、デビュー作となった社会風刺小説『屑屋の籠』、郷里種子島の鉄砲伝来の功績を讃える『南島偉功伝』、文学博士号を授与される要因となった主著『日本宋学史』、懐徳堂の顕彰運動の一環となった『懐徳堂考』など、膨大な数に上る。
しかし、大正13年(1924)に60歳で急逝したことから、その生涯と業績をたどる試みは、これまで充分になされていない。
そこで、天囚の没後100年を節目として、その思想と歴史的意義を多様な角度から考察する『西村天囚研究』シリーズの刊行を計画した。
本書はその第一巻として、種子島で発見された自筆草稿、遺墨、印章などの新資料も活用し、その生涯と業績の全容に迫る。末尾の第十一章「近代文人の知のネットワーク」は、西村天囚と関わりのあった著名人約230名の情報を種子島の西村家に残されていた貴重な写真とともに掲げる小事典となっている。