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宣命体の研究  新刊

――表記と文章の諸相――

宣命体の研究

◎口誦形記録の表記や文章から述作者の国語意識を探る!

著者 馬場 治
ジャンル 国語学(言語学)
出版年月日 2023/02/08
ISBN 9784762936791
判型・ページ数 A5・608ページ
定価 15,400円(本体14,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

序論 宣命体の案出と実用

第一部 天皇と宣命体(『続日本紀』宣命に関するもの)

〔前編〕表記と訓読
  第一章 『宣命抄』から『詔詞解』へ―規範意識と本文整定―
  第二章 続日本紀宣命における語意識と分析的表記
         ―「美内久」(第一三詔)について―
  第三章 続日本紀宣命における自立語の同語異表記
         ―表音と表語―
  第四章 続日本紀宣命における文脈指示語の表記
         ―カクとカクノゴトク―
  第五章 続日本紀宣命における語序と表記の変遷
         ―「~トトモニ」について―
  第六章 続日本紀宣命における漢訳仏典語の訓読―「至誠心」について―
  第七章 続日本紀宣命における奇異な漢字列の訓読―「休息安麻利弖」について―

〔後編〕文章と表現
  第一章 続日本紀宣命における出典語句―『千字文』の対句について―
  第二章 続日本紀宣命における仮定条件構文―タトヒとモシ―
  第三章 『古事記』と続日本紀宣命の叙述―付音注仮名書き付属語と宣命体―
  第四章 祝詞と宣命の交渉―奏上体と宣下体―
  第五章 続日本紀宣命の文章構成―引用と宣制―
  第六章 続日本紀宣命と典故―第五九詔の格言引用を中心に―
  第七章 宣命の対句表現「進母不知退母不知」の典故―『詩経』と『周易』―

第二部 説話・縁起の宣命体(『風土記』逸文・『元興寺縁起』に関するもの)

  第一章 蘇民将来説話の宣命体―縁起と奏宣―  
  第二章 夢野起源説話の宣命体―口誦と記載―
  第三章 元興寺縁起の宣命体について―小字仮名と倒置表記―

第三部 宣長・久老の宣命体(本居宣長・荒木田久老の著述に関するもの)

  第一章 『古事記伝』における宣命の引証―古語の格と助辞―
  第二章 『玉勝間』における祝詞宣命の言説―古記録と儀式書―
  第三章 荒木田久老訓点『續日本紀宣命』の句読法―切れと続き―

結論 宣命体の本質と国語意識

【付録】五国史所載宣命発布年月日表 
【初出一覧】
あとがき
索 引(書名・資料名索引、人名索引、事項・術語索引)

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内容説明

【序論 宣命体の案出と実用 より(抜粋)】
 宣命文とは「口誦と記載の二重性が表裏一体化した性格をもつ日本語散文である」、宣命体とは「祭儀の場で宣読する為に案出された実用的な表記体である」の如く、一応の定義はできる。しかし、「正書法的に規格化されてはいない、試行的かつ流動的な表記体でもある」との主旨は、既に皇學館大学へ提出した拙論、卒業論文「宣命書きに見られる語法意識について――特に字音仮名表記動詞の語意識の考察――」(昭和五七年一月)、修士論文「続日本紀宣命の語学的研究」/副論文「続日本紀宣命国語索引稿・品詞別語数統計表」(昭和五九年一月)において、「正訓字」相当の仮名書き自立語(大書小書)を主として、特異な具体例を挙げて検証した。本書でも、「第一部 天皇と宣命体(『続日本紀』宣命に関するもの)〔前編〕表記と訓読/〔後編〕構文と表現」において、「宣命体か否か」「宣命体の成立要件とは何か」といった表記体の本質的な問題を追究すべく、各論題目の具体例を対象に、上代文献資料との共時的な比較、及び続日本紀宣命全六二詔の文体表記との通時的な比較によって考察した。……日本語の語序に概ね従って書き下し、凡そ自立語や語幹など表語的に用いた漢字(正訓)は大字、付属語や語尾など表音的に用いた漢字(仮名)は小字で書き分けるという特徴的な示差機能を持つ祝詞宣命に代表される文体表記である宣命体(宣命書き)も、この属性において定位されなければならない。そこで、宣命体について祝詞宣命の用例比較や内部徴証だけではなく、漢字専用時代の上代共時文献における表記体系の一つとして捉え相対化し、正訓か仮名か(用法的な差異)、大字か小字か(形態的な差異)といった事象選択の背後にある国語意識あるいは漢文表現に規範を求める典故意識の在り方にまで考察が及ぶよう努めた。
 「第二部 説話・縁起の宣命体(『風土記』逸文・『元興寺縁起』に関するもの)」においては、「実用的な口誦体」の為の漢字記載という観点から、共同体のアイデンティティーを象徴する神社縁起や地名起源を語る地方説話で用いられた宣命体を考察の対象とした。……口誦形の記録に宣命体が用いられた動機と特徴について、「無病息災を祈願する夏越しの大祓の神事〈茅の輪くぐり〉に象徴される祭儀の場で口誦された奏宣詞章」「未来の吉凶を判断する鹿占神事に奉納される夢相と俗説を主題とした祭祀芸能で口誦された擬人法的台詞」といった旨の仮説のもとに考察した。『元興寺縁起』では、醍醐寺本『元興寺縁起』冒頭所載「佛本傳来記」引用「聖武天皇天平十八年四月十九日の宣命(飛鳥寺に誓ひ給へる宣命)」及び「元興寺伽藍縁起并流記資財帳」の宣命体について、本文の整定、小字仮名と倒置表記の分析、成立に関する先行諸説の検討、奏上体宣命及び『今昔物語集』との比較、の観点から考察。その結果、当該資料は片仮名を交えた仏教系訓読脈の宣命書きであり、続日本紀宣命など、地の文が正格漢文である勅撰史書所載の神祇系倭文脈の万葉仮名による宣命書きとは明らかに相違しており、奈良朝ではなく平安朝以降に愁訴状の意味を込めて作成された偽書であろうとの新たな知見を提示した。
 「第三部 宣長・久老の宣命体(本居宣長・荒木田久老の著述に関するもの)」においては特に、近世の国学者・本居宣長の本文整定と古典注釈の方法について、宣命体史料を通じて考察した。……まず、注釈書『古事記伝』を対象に、宣長の漢意を排した「古語の格」究明おける最大の関心事であった助辞認定について、採用された宣命体による引証の方法とその有効性を、具体例に即して検証した。次に、随筆集『玉勝間』を対象に、従来あまり顧みられなかった平安朝の古記録や儀式書に収載された宣命体史料の価値と祝詞宣命を必須要件とする祭儀に関する言説の意義を、具体例に即して検証した。更に、荒木田久老訓点『續日本紀宣命』の句読法について、漢字専用時代の倭文体である続紀宣命における句読法研究の意義を「中務省内記の起草時における文章の区切り意識及び宣命使による宣読の息継ぎ箇所をある程度想定できるから」とし、続紀諸本における句読法表示の様相を「零・空・点」の三表示方式に分類して概観した。その上で、段落末の宣制詞を中心に、宣長『詔詞解』と久老『訓点本』の句読点の打ち方を比較し、句点と読点で形態上の区別がない白ゴマが夥しく打たれている久老『訓点本』の特徴について「意味の切れ目よりも宣読の息継ぎを反映しているのではないか」という新たな知見を提示した。久老は伊勢神宮祠官だったから、実際に奏宣儀式の場に臨んで会得したものだろうと推察される。
 以上、三部構成された各章の論考から、宣命体による表記と文章として顕現した諸相とその実態、及び背後に潜在した国語意識を多面的に把握できるよう努めた。

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