目次
第一部 総論
序章
一 目的と意義
二 位置づけと研究方法
三 先行研究
四 用語と視座――モダンダンスについて
五 戦時舞踊とジェンダー――主体的に踊る身体、見られる身体の曖昧化
六 本書の構成
第一章 戦時下の舞踊をめぐる文化政策――厚生運動と恤兵部
一 厚生大会から工場舞踊まで
二 大政翼賛会文化部と産業報国会の移動文化隊構想
三 厚生運動下における体操と舞踊の接近
四 演芸慰問派遣のシステム
第二章 翼賛体制下の舞踊界
一 皇紀二千六百年奉祝芸能祭
二 自主的参加装置としての舞踊コンクール
三 厚生舞踊の奨励
四 芸能奉公隊の結成
五 戦時下バレエ団の群像
付録:短編小説「慰問舞踊」
第二部 各論
第三章 石井漠の大陸慰問
一 石井漠舞踊研究所
二 石井漠舞踊団の中国大陸、南方舞踊
第四章 大陸、南方における江口隆哉・宮操子舞踊団
――戦時の語り、戦後の記憶
一 一九三〇年代のドイツ留学とのつながり
二 大陸慰問〔第一回 広東方面へ/第二回 江南方面へ〕
三 再び江南方面へ、そして南方へ(一九四一年―一九四二年)
四 中国人へのまなざし
五 公演を観た中国の人々
第五章 日本放送協会による皇軍慰問演芸団――石井みどり舞踊団、南方へ
一 南方慰問の要請
二 一九四二年秋日本放送協会主催、皇軍慰問演芸団
三 舞台の周辺にいた人々
第六章 慰問舞踊と工場体操との親和性――石井みどり舞踊団の地方巡演
一 石井みどり舞踊団
二 石井みどり舞踊団の大陸慰問
三 石井みどり舞踊団の工場慰問一九四一―一九四五年
四 参集した舞踊家たち
終曲 日本敗戦――その後の舞踊家たち
〇 慰問団が来ない戦場の演芸会
一 旧植民地の舞踊家たち
二 日本の舞踊家たち
初出一覧
日本放送協会主催南方慰問日程
モダンダンスおよびバレエ軍隊慰問舞踊年表
参考文献
あとがき
索引
内容説明
【序章より】(抜粋)
本書は、日中戦争および太平洋戦争下における国民の身体に関する文化政策の状況を踏まえて、陸軍省恤兵部の派遣した「皇軍」演芸慰問団、厚生省の要請に応えた厚生舞踊のうち、モダンダンスを対象としてその役割と効果を考察するものである。
本書は二部構成で、第一部総論、第二部が各論である。
第一部第一章では翼賛体制下のモダンダンスはどのような機関、制度のもとで行われていたのかを検討する。この章が必要であるのは、第二章で紹介するイベントがそれらの機関、制度の後援ないし統制のもと、舞踊家たちが結集して行われていたからだ。第二章は皇紀二六〇〇年記念の舞踊イベントと、その延長として行われた戦時期の舞踊コンクールを中心に、戦時下の舞踊家たちの動向を群像として追う。
第二部は慰問と厚生運動において重要な役割を担ったと現段階で考えられる舞踊団の活動に関する各論である。第三章では石井漠舞踊団の、第四章では宮操子・江口隆哉舞踊団の大陸慰問を考察する。第五章では、石井みどりの参加した比較的大掛かりな日本放送協会(現在のNHK)主催によるビルマ駐留軍慰問団の動向を再構成し検討する。第六章では、石井みどり舞踊団の太平洋戦争期における国内工場慰問について考察する。エピソードとして慰問に参加した舞踊家たちの活動の、戦後への接続を概観する。