目次
一、「黄巾」から語る
二、多岐にわたる「道敎」像
三、先行研究槪觀
(一)道敎經典に關する先行研究
(二)重玄に關する先行研究
(三)道敎史に關する先行研究
(四)老子、老君に關する先行研究
(五)道敎造像に關する先行研究
四、本書の目的と構成
(一)本書の目的
(二)本書の構成
道 篇
第一章 「道」の諸貌:東晉南北朝初期道經における「道」を中心に
一、古上淸經系經典に見える「道」と至尊神
(一)錯綜した複合的修錬法の傳統
(二)『上淸大洞眞經』
(三)『洞眞高上玉帝大洞雌一玉檢五老寶經』
(四)『洞眞太上素靈洞元大有妙經』
(五)『太上三天正法經』
二、古靈寶經系經典に見える「道」と至尊神
(一)元始舊經
(二)仙公新經
三、重層的な至尊神體系の形成
第二章 再び「道」へ:隋代以前における重玄思想について
一、『太玄眞一本際經』における重玄思想について
二、『老子道德經開題序訣義疏』における重玄思想について
三、『道德眞經廣聖義』における重玄思想について
四、『道德眞經廣聖義』に見える重玄思想の二重構造について
五、隋代までのいわゆる「重玄諸子」の重玄説について
六、「道」への回歸
第三章 隋唐初期道敎における般若學の空思想の受容について
一、『太玄眞一本際妙經』「護國品」に見える空思想について
二、『太言眞一本際妙經』「付嘱品」に見える空思想について
三、『太言眞一本際妙經』における空思想の役割
四、新しい動き:『道經義樞』など諸道經に見える空思想について
第四章 三 淸 考
一、『洞玄靈寶眞靈位業圖』をめぐる諸問題
二、南北朝隋唐期道敎經典に見える天界の三淸説と至尊神體系について
三、南北朝隋唐道敎の齋法科儀類經典に現れた至尊神信仰體系の變遷
四、南北朝道敎戒律經典に見える至尊神信仰體系について
五、道敎における三淸信仰體系の成立
敎 篇
第五章 北朝道敎に關する幾つかの考察
一、造像記に見える老君と天尊
(一)道敎の造像をめぐる諸問題
(二)南北朝隋代における造像記に見える老君と天尊
A.造像の數量・年代・場所等について
B.造像の用語、目的及び研究方法についての再考
二、造像記の反映する北朝期における道敎の發展史
(一)北齊における天師道
(二)北周における天師道と南方系道經の影響
(三)造像記の歴史的意義
三、正史並びに「道敎實花序」に見える老君と天尊
(一)『魏書』釋老志に見える老君の姿
(二)『隋書』經籍志の「道經序」見える老君と天尊
(三)橋渡しとしてのテキスト:「道敎實花序」
第六章 晉唐佛敎の道敎批判論理の定型化
――『弘明集』『廣弘明集』を中心に――
一、『弘明集』に見られる道敎批判について
二、『廣弘明集』に見られる道敎批判について
三、道敎側の反應
四、後世への影響について
第七章 晉唐佛敎の道敎敎理の理解について
――『弘明集』『廣弘明集』を中心に――
一、『弘明集』に見られる道敎敎理の理解について
(一)『老子』と長生神仙思想について
(二)道敎と氣化論について
二、『廣弘明集』に見られる道敎敎理の理解について
(一)「笑道論」における道敎敎理批判
(二)「二敎論」における道敎敎理批判
(三)『辯正論』における道敎敎理批判
第八章 道敎・儒敎と王權
――漢唐間における道儒二敎の祭祀儀禮を中心に――
一、はじめに
二、荀濟の排佛論から語る
三、儒敎における六天説の成立と展開
四、道敎儀禮に見える儒敎六天祭儀の繼承と變容
五、道敎・儒教・王權の競合:明代の靈濟宮を中心に
小結「屈服史」再考
終 章
参考資料
あとがき
索 引
内容説明
【序論「本書の目的と構成」より】(抜粋)
道敎史において、二世紀から八世紀に至る約六百年間は、經典・敎理・人物・造像などの各分野において大きな發展と統合が遂げられた時代であった。このような道敎の各方面における展開については、唐の玄宗(在位七一二~七五六)の先天元年(七一二年)に編纂された道敎の類書である『一切道經音義』玄宗の「序」および「妙門由起」に記錄が見える。こうした記錄から、魏晉南北朝隋唐期においては、道敎諸組織による大規模な統合化の現象、卽ち諸組織がそれぞれ個別に有していた經典・敎理などを徐々に共有のものとして統合しつつ、體系化していく活動が行われていたことが窺える。
この體系化活動の中では樣々な事柄が整理され、後世に大きな影響を及ぼした。例えば、「三洞四輔」という道敎經典の分類法も、この體系化活動の過程で成立したものであり、以後、明代に編纂された道敎經典の集大成である『正統道藏』に至っても、この「三洞四輔」という分類法によって諸經典が分類されている。一方、道敎敎理の發展と共に、最高の信仰對象である至尊神は老君から天尊へと變化し、そして「三淸」と呼ばれる三柱の神靈によって構成される至尊神體系の信仰へと移行して定着した。現在、中國や臺灣各地の道觀には「三淸」と稱する殿宇がよく見られる。
一方で、前述したように、これまで、この時期の道敎については、經典の成立年代や敎理を究明する研究が多くなされて來た。このような經典に關連する研究は道敎研究の基礎であるが、それが盛んになされる一方で、當時の道敎が敎理や儀式を生み出すにあたって歴史・社會といかに關連したのかについての研究は、まだそれほど多くない。また、道敎の敎理を思想史上に位置づけて理解するには、道佛兩敎の交渉を視野に入れて考察する必要があるが、そのような研究もまだ多くない。(中略)
本書は、このような研究狀況を克服するために、三敎交渉の歴史において魏晉南北朝隋唐期の道敎が形成した過程を思想的な面に焦點を當てつつ、可能な限り當時の歴史的背景や、儒・道・佛三敎の交渉樣相(特に道佛兩敎を中心に)といった事柄を視野に入れて考察する。具體的には、東晉南北朝初期の道敎經典における「道」の理解と至尊神の形態と、重玄思想の成立をめぐる諸問題、ならびに佛敎の般若學の空思想が與えた道敎思想への影響、そして至尊神である「三淸」信仰體系の形成と、北朝期道敎の展開とその歴史的背景、佛敎の道敎に對する批判體系の形成及びそこに反映された佛敎による道敎敎理の理解、そして三敎交渉における儒道關係の樣相という多方面からの考察を通じて、魏晉南北朝隋唐期に起こった道敎の形成過程およびその思想の展開について分析し、その歴史的意義の更なる解明を目指す。
The Development of Taoism and Interactions between the Tree Teachings in Jin-Tang China