目次
第一章 古代日本語による東西国境の表象
古代日本の道と国境・越境の文字文化
古代東海道と東西越境地域の「渡り」
古代日本語「しかすが」歌枕「しかすがの渡り」
「坂」(峠)への祈りと万葉歌――「神の御坂」を詠む防人の歌(巻二〇・四四〇二)――
持統天皇伊勢国行幸と万葉歌
持統太上天皇参河国行幸と万葉歌
人麻呂歌の「あまとか見らむ旅行くわれを」の意味
第二章 古代的象徴表現と万葉集の表象
古代的自然把握と象徴表現
序詞の機能と構造
枕詞の機能と構造
序詞の象徴機能と枕詞
東歌の序詞表現
東歌の地名と地名表象
第三章 古代日本語表現と万葉歌
「逢ふ夜」「逢はむ夜」「逢ふべき夜」助動詞連体形の意味と機能
古代日本語「忘れて思へや」の構文と意味
古代日本語「ずは(ば)」について
「人妻ゆゑ(に)」の構文と意味
初出一覧
あとがき
索引
内容説明
【序より】(抜粋)
本書は、古代日本語の表象に着目した研究書であり、古代日本語によって表された『万葉集』の歌の表象について考究したものである。『万葉集』は、現存する日本最古の歌の集である。『万葉集』所収の四五〇〇首余りの歌は、古代日本語の貴重な資料であるとともに、古代日本人の自然観や対象把握・思考の論理を探る上に極めて有益である。また、古代律令制のもとで中央と地方を最短で結ぶべく整備された道制(七道)や古代日本の東西文化をも反映している。
『万葉集』の表現への関心は、昨今、日本文化の源流への関心とともに日本国内のみならず国際的にも高まっている。しかも日本の文字文化や古典文学の表現は、歌を基軸として発展を遂げ、仮名文字の獲得により平安時代には世界に誇る歌物語や歌日記等として結実する。『万葉集』の表現の研究は、「歌」を基調とする日本語表現の源流と歴史的展開を解明する上でも重要である。そのためには、まず『万葉集』の歌を、古代的思考や制度に基づく「やまと歌」として精確に読み、一首の表現に託された思惟や感情を読み解くことが求められる。とりわけ、心物融合的な思考に基づく表現がシンボライズする真意を解明するためには、古代日本語の構文・意味とともに表象の研究が必須とされる。近年の『万葉集』の研究は、構造論や形成論・編纂論・成立論にシフトし、諸本・校本研究はもとより受容史や注釈史研究において成果が著しい。しかしながら、古代日本語による歌表現・表象としての『万葉集』の研究には未だに課題が残されている。また東西国境・越境を起点とする「古代日本の文字文化」研究も、新たな成果が期待され、かつ社会的要請にも応えうる未開拓の学問エリアといえる。
本書は、上記のような観点に立って古代日本の歴史や社会制度を視野に入れつつ、古代日本語の表現が内包する古代的思考や認識、言語表現が具象化しシンボライズする表象の把握をめざしたものである。すなわち、『万葉集』を主たる対象とした「古代日本語の表象」の考究を目的としており、全体は三章からなる。