目次
序 章
第一部 公文を対象とした研究
第一章 天平宝宇年間の表裏関係から見た伝来の契機
第一節 「造金堂所解」をめぐる再検討
第二節 天平宝宇三年の造東大寺司文書
第三節 表裏関係から見た造石山寺所関係文書の伝来事情
第二章 八世紀における銭貨機能論
第一節 銭貨の役割について
(一)写経所における財源運用
(二)造営事業における財源運用
(三)財源と銭貨
第二節 銭貨の効用について
(一)功直支給について
(二)布施について
第三章 「布施勘定帳」の基礎的分析
第一節 「布施勘定帳」作成の前提作業
(一)(A)「写書布施勘定帳」
(一二―六一~九九、続々修一三帙七)の所見
(二)(B)「写書布施勘定帳」
(一二―四二~六〇、続々修一三帙八)の所見
(三)(C)「倶舎宗写書布施勘定帳」
(一二―一四七~一六一、続々修一三帙六)の所見
(四)(D)「東寺大修多羅衆并律衆布施法定文案」
(一一―五六八~五八九、続々修四一帙一)の所見
(五)(E)「華厳宗布施法定文案」
(一一―五五七~五六八、続々修四一帙二)の所見
(六)小 結
第二節 布施額算定の手順
(一)(A)の所見
(二)(B)の所見
(三)(C)の所見
(四)(D)の所見
(五)(E)の所見
第三節 算定額の記載に対する監査
第四節 帳簿の転換
第四章 言葉を綴った人々――丸部足人の場合――
第一節 丸部足人の足跡
第二節 丸部足人の肩書き――「雑使」――
第三節 丸部足人が残した三通の文書について
第四節 「使」について
第五節 丸部足人と同類の雑使について
第六節 「使」と文字
附 論 仕丁私部広国――奉写大般若所注進文に描かれた姿――
(一)私部広国について
(二)正倉院文書に見える仕丁の姿
(三)石山寺造営事業の先発隊
(四)本状の書式と内容――その構成と表現――
第二部 書状を対象とした研究
第一章 「啓」・書状の由来と性格
はじめに――研究史の整理と書状研究の背景――
第一節 正倉院文書に見える「啓」・書状
(一)内容について
(二)分 類
(三)まとめ
第二節 要素その1 「啓」の書式をめぐる規定
(一)日本における啓の規定
(二)唐における啓の規定
(三)日本における表の規定
(四)唐における表の規定
(五)上表と奉表の規定について
(六)日本における表と啓の実例
(七)唐における表と啓の実例
(八)まとめ
第三節 『文心雕龍』の中の表と啓
(一)劉勰と『文心雕龍』
(二)上書四種について――表と啓の性格――
(三)三国両晋時代の啓の発展過程とその実態
(四)表と啓の関係性
(五)表と啓の本質について
(六)近年出土した簡牘に見られる書信簡牘――表や啓の起源――
(七)まとめ
第四節 要素その2 用語・表現について
(一)書状用語
(二)敬 語
(三)倭語・倭習
(四)まとめ
第五節 要素その3 書体について
(一)正倉院文書の「啓」・書状の書
(二)後漢 趙壱『非草書』
(三)晋 衛恒『四体書勢』
(四)宋 羊欣『古来能書人名』
(五)梁 庾肩吾『書品』
(六)梁 庾元威『論書』
(七)唐 孫過庭『書譜』
(八)まとめ
第二章 『国家珍宝帳』に見える「王羲之書法廿卷」の性格
第一節 王羲之真蹟の集積過程
第二節 王羲之真蹟が内庫から出された状況について
第三節 『献物帳』に見える王羲之「書法廿卷」について
第四節 王羲之「書法廿卷」とともに見える「献物」について
第三章 正倉院文書の「啓」・書状に見られる書の性格
第一節 奈良時代の書
第二節 公文の書
第三節 「啓」・書状の書に見える草書体
第四節 楷書体と行書体――『集字聖教序』との関連性――
第四章 正倉院文書の中の「王羲之習書」について
第一節 『万葉集』に見える王羲之の受容
第二節 「王羲之習書」のすがた
第三節 王羲之受容の諸段階
第四節 書法の転換
終 章
あとがき
索 引
内容説明
【本書より】(抜粋)
本書は、奈良時代の律令文書行政において、官人が伝達手段として用いた、公文と書状という二つの枠組みから正倉院文書の構造的特質を明らかにした。両者は、異なる淵源に端を発するものであったが、両者が相俟って文書行政を支えたのである。第一部においては、帳簿や公文の整理から社会の諸様相を明らかにし、第二部においては、書状の整理に基づいて公文と書状の相違の根源を明らかにすることをめざした。また書状の要素の一つでもある書体について考察した。第一部における公文の徹底分析が、第二部における書状の特殊性を発見し分析する契機となった。
近年の正倉院文書研究においては、正倉院文書は写経所に残された文書であるから、写経所文書と呼ぶのが正しいと提唱され、個別写経ごとの帳簿研究に重点が置かれている。すなわち現在の正倉院文書研究においては、写経事業ごとの帳簿復原が必須の課題とされているために、写経事業という枠組みからの研究に固執し研究領域を狭めている傾向がある。(中略)本書では、あえて個別写経毎の復元研究や写経事業という枠組みの中でのみ帰納していく正倉院文書の解明を避け、別の観点から正倉院文書を分類・解明していく方法を選択した。公文と書状という、二つの枠組みから解明していく方法である。(中略)そこで第一部では公文を対象とし、第二部では書状を対象とした研究をまとめた。この対峙する二つの伝達手段の特質をそれぞれ詳細に考察することによって、正倉院文書全体の構造的特質の解明を目指した。特に第二部においては書状の要素のうち、書に着目した研究を行い、両者を巧みに操って律令文書行政を支えた律令官人の属文能力を解明することを目指した。