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汲古叢書88 秦漢律令研究

汲古叢書88 秦漢律令研究

使用可能な出土法制史料を収集・整理し、戦国秦漢時代の法制度の実情を解明する!

著者 廣瀬 薫雄
ジャンル 東洋史(アジア) > 殷周秦漢
シリーズ 汲古叢書
出版年月日 2010/03/10
ISBN 9784762925870
判型・ページ数 A5・432ページ
定価 12,100円(本体11,000円+税)
在庫 品切れ・重版未定
 

内容説明

【序章―本論文の方法と構成】より

本論がとる方法は、第一に、法制史研究として、律令の研究を行う。日本におけるこの方面の名著として、淺井虎夫『支那ニ於ケル法典編纂ノ沿革』と滋賀秀三『中國法制史論集 法典と刑罰』が挙げられるが、淺井書はもちろん、滋賀書も出土法制史料の成果を十分には取り込んでいない。本論は、その欠を補うべく、出土法制史料を用いて秦漢時代の律令を体系的に叙述する。

 律令の研究は、法の存在形態の研究、すなわち法源論に属する。これまで中国法制史における法源論は法典編纂史の研究を意味してきた。淺井・滋賀両書の書名に「法典」の語が入っていることがそれをよく物語っている。しかし、それでは法典の存在しない時代は研究することができない。それどころか、従来の研究は法典のなかった秦漢時代にまで法典を作り出すというあやまちを犯してしまっている。本論文では、まず秦漢時代の律と令が法典ではなかったことを論証し、法典ではなかった律令が法典として編纂されるようになるまでの変遷を描く。

 第二に、 簡牘研究として、高度な専門性を維持しつつ、各種簡牘に広く目配りをし、秦漢時代の簡牘についての総合的な知識を提供することにつとめる。逆に言えば、居延漢簡研究とか、睡虎地秦簡研究といったような、特定の簡牘の専論にはしない。

 およそ出土資料研究は、「地下の新材料によって紙上の材料を補正し、古書のある部分がすべて実録である、すなわち百家の雅馴ならざる言もまた一面の事実を示していないものはないことを証明する」という王國維の二重証拠法に帰着する。例えば正史には多くの詔書が引用されているが、詔書の実物が出土したことによって、それらがそもそもはどういう形をしていて、どのような経路で布告され、正史の中でそれらがどのように変形・省略された形で残されているのかがある程度推測できるようになった。するとこれまでは気づかなかった問題をいくつも発見することができるのである。そしてまた逆に、伝世文献を読みなおし、出土法制史料をその中に位置づけることによって、出土法制史料の史料的性格もある程度明らかにすることができる。

 出土資料研究の要諦は、出土資料そのものの研究だけではなく、伝世文献と出土文献を突き合わせ、相互の資料価値を高めることにあると筆者は考える。

 

【内容目次】

序 章 本論文の方法と構成

中國古代法制史研究の現状と課題

〔出土法制史料の意義/出土法制史料の種類と簡牘研究史/先行研究の課題〕

本論文の方法/本論文の構成

第一部 序 論

第一章 律令史の時代區分について

滋賀秀三氏の時代區分とその問題點

私 見〔秦漢時代の律令の存在形態/律の法典化―魏新律/令の法典化―晉泰始律令/律令格式の完備―西魏・隋・唐/法源にもとづく時代區分〕

律令制という語

第二部 秦漢律令の研究

第二章『晉書』刑法志に見える法典編纂説話について

問題の所在―『法經』辨僞史

法典編纂説話の成立原理〔加上の原則・層累地造成説/商鞅改法爲律説話の加上〕

法典編纂説話が僞史であることの證明

〔歴代刑法志の檢討/『論衡』謝短篇の檢討/『法經』『律經』漢代法律學書説〕

法思想としての法典編纂説話〔法典編纂説話の形成過程/法典編纂説話の資料的性格〕

第三章 秦代の令について

秦令の存在證明

〔『史記』秦始皇本紀/逐客令・夷三族令・妖言令/張家山漢簡『奏讞書』/里耶秦簡/嶽麓書院藏秦簡〕

秦令の形式と制定手續き〔秦令の形式/秦令の制定手續き〕

秦漢時代における令の保管と整理〔漢令の三種の整理形態/漢代における詔書の傳達と保管/詔書の傳達・保

管と漢令の整理形態の關係/秦代における令の整理方法/修令〕

附論 嶽麓書院藏秦簡の『律令雜抄』について

〔嶽麓書院藏秦簡の概要/「綜述」による令の分類/令名について/令本文について/嶽麓書院藏秦簡『律令

雜抄』發見の意義〕

第四章 秦漢時代の律の基本的特徴について

秦律・漢律の制定手續き〔魏晉以後の律令の制定手續きと從來の諸説/

戰國・秦・漢の律の制定についての記載/秦漢の律の制定手續き〕

秦律・漢律の形式〔律名/律文〕

律違反としての「犯令」「廢令」  

第五章 九章律佚文考

九章律囚律佚文の提示/九章律囚律佚文の證明/經學としての『律』解釋學/『律』の成立と經學化

第六章 漢代の故事

故事の形成と構造〔丞相故事/尚書故事/郎官故事/郡の故事/漢家故事/故事の構造〕

廷行事〔行事の意味/廷行事の用例/廷行事の廷の意味/廷行事の整理・編纂/『廷尉決事』〕

律令と故事の關係〔制定される故事/故事と律令の對立/出土資料に見える律令と故事の併存〕

第三部 出土法制史料の研究

第七章 張家山漢簡『二年律令』史律研究

史律譯注

〔四七四號簡/四七五~四七六號簡/四七七~四七八號簡/四七九號簡

 /四八〇號簡/四八一號簡/四八二~四八三號簡/

四八四~四八六號簡/四八七號簡

更數の解釋〔更數の用例と踐更の意味/更數に關する諸説の檢討/私見/「冗」の意味〕

官吏の踐更〔卒の踐更と官吏の踐更/踐更の「更」の意味/踐更の就番期間〕

賤更の小吏〔官吏の非番時の生活/常勤官吏と非常勤官吏〕

附論 卒の踐更〔『律説』の解釋について/更卒と徭役の關係/

  『漢書』食貨志上所引董仲舒上言の解釋〕

第八章 額濟納漢簡新莽詔書册詮釋

諸説の整理・私見・全譯と事件經過の復原

第九章 王杖木簡新考―漢代における律令學習の一形態―

制詔「蘭臺令第卌三」の制定年代/王杖詔書册の構造/王杖詔書册の排列原理

王杖十簡の排列/王杖斷簡の資料的性格/結論

あとがき 索 引〔引用伝世文献・同出土文献索引/人名索引/字句・術語索引/本書所見律名・令名索引〕

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