目次
はじめに
第Ⅰ部 近代中国の郷村管理と郷役
第一章 蘇州における郷村管理と郷役
一 清末民国初期における郷村管理者
二 南京国民政府による改革とその実態
(1)南京国民政府による改革の試み
(2)郷村社会における郷役の実態
三 聴き取り調査による具体例
(1)盛介正氏の場合
(2)顧彩元氏の場合
(3)陸伯清氏の場合
第二章 松江の郷役から見た土地改革前史
一 旧松江府の沿革
二 《図正》の履歴
(1)《図正》の誕生
(2)《図正》の転生
三 土地改革と《図正》
(1)土地改革の概況
(2)帰戸併冊の実施
(3)《図正》が語る土地改革前史
第三章 近代蘇州郷村管理社会復元の試み
一 文献による蘇州の郷役
二 聴き取り調査による蘇州の郷役
(1)盛介正氏・陳俊才氏
(2)陸伯清氏
(3)孔仁和氏
三 江南の聴き取り調査から見えてくるもの
(1)《地保》と《経造》
(2)《催甲》
四 『中国農村慣行調査』に見る華北の郷役
(1)『中国農村慣行調査』について
(2)華北郷役の諸相
(3)華北郷役の特徴
第Ⅱ部 近代中国の溺女問題とその改革
第四章 溺女問題とその系譜
一 溺女問題とは何か
二 清代督撫の溺女認識
三 溺女問題の背景
(1)宋元時代の嬰児殺し
(2)厚嫁風潮の出現
(3)重男軽女観念の再生
四 明朝の溺女問題への対応
(1)禁令による対応
(2)救済による対応
(3)教誨による対応
第五章 清朝の溺女問題への対応
一 禁令による対応
(1)清朝の溺女禁令の展開
(2)禁令はなぜ発せられたの
(3)禁令はなぜ徹底しなかったのか
二 救済による対応
(1)育嬰堂の建設と溺女問題
(2)童養媳の利用と問題点
(3)保嬰会による救済法
三 教誨による対応
(1)官僚の教誨
(2)善書の教誨
(3)溺女教誨説話が語りかけるもの
四 江戸・明治初期の間引き対策
(1)間引きの背景
(2)間引きの何が問題にされたのか
(3)間引き問題への対応
第六章 近代中国の溺女問題改革
一 清末民国初期における溺女問題
二 南京国民政府による溺女問題改革
三 人民政府による溺女問題改革
(1)「解放」直前の溺女概況
(2)「解放」後の溺女問題改革
第Ⅲ部 史料:聴き取り調査による口述記録
第七章 松江の郷役に関する口述記録
一 湯伯泉氏への聴き取り
二 徐妙発氏への聴き取り
第八章 蘇州の郷役に関する口述記録
一 盛介正氏への聴き取り
二 陸伯清氏への聴き取り
三 孔仁和氏への聴き取り
第九章 蘇州の溺女に関する口述記録
一 鄧兆銘氏への聴き取り
二 陳俊才氏への聴き取り
結びにかえて
あとがき
参考文献
図表出典一覧
史料索引
事項索引
中文・英文目次
筆者紹介
内容説明
【はじめにより】(抜粋)
本書の目的は二十世紀前半の中国江蘇南部および浙江・江西・福建を主とする華東地方において郷村社会がいかにして管理されていたかを問うことにある。ここでいう「郷村社会」とは、王朝時代の行政権力が十分に浸透しえなかったとされる末端社会、現代中国語でいう「基層社会」を意味する。(中略)
二十世紀前半、中国はその体制を「近代国家」の統治形態に改編することが求められ、その過程において新たな文脈の下で郷村社会を直接管理することをめざそうとした。そして、これまでのいわば〝放任状態〟を改め、その「制度化」、「組織化」、「統一化」をはかることになった。だが、それはいかにして実現できたのであろうか。はたまた実現できなかったのであろうか。かりにもし実現できなかったのであれば、その原因はいずこに求められるか。本書は以上の問題に対し、性質を異にする二つの対象に焦点を当て、その改編過程を詳細に追うことに主眼を置いた。対象の一つは、郷村社会において徴税や治安などの実質的な管理を担っていた者、すなわち本来里甲正役に由来する徭役として王朝支配の末端に位置づけられていたが、里甲制が解体した清代十八世紀以降にあっては職業化・専業化して国制の埒外に置かれるも事実上の郷村管理を担い続けた者たちの存在である。本書では便宜上これを「郷役」と称する。清代にあっては王朝の人民を直接管理する国制原理に第三者が介在し、「仮公済私」、すなわち「公事にかこつけて私腹を肥やす」という実態を容認し得ない限り、これらの郷役は一貫して非合法の存在であり続け、為政者からはしばしば禁止・廃絶の対象とされた。ならば、二十世紀前半の中国政府、とりわけ「国民国家」を標榜した南京国民政府はこの問題にいかに対処したのか。そして、それは最終的にどのような結末を迎えるに至ったのか。本書はこの設問に対して江蘇南部を地域対象にした三篇の論文によって追究し、それらを第Ⅰ部「近代中国の郷村管理と郷役」に収めた。もう一つは、伝統中国の郷村社会において長期にわたって存続した固有の習俗の一つである溺女、すなわち郷民による女児を主とする嬰児殺しをめぐる問題である。儒教を秩序原理とする歴代王朝にとって、親が子を殺すことなど、あってはならないことであり、溺女は人倫の破壊、延いては天理への背反に繋がる「陋習」として深刻に受け止められ、その撲滅が一貫して唱えられてきた。また管轄地域における「移風易俗」を任務の一つとした地方官僚たちも頻繁に告示を出してその禁止を命じてきた。だが、その努力もむなしく、二十世紀に至るまで「陋習」は一掃されなかった。さらに二十世紀を迎えた中国においては、溺女は人口減少や人権尊重の問題ともリンクしてその克復がさらに切実な政治課題として昇華した。ならば、二十世紀前半の中国政府、とりわけ「国民国家」を標榜した南京国民政府はこの問題にいかに対処したのか。そして、それは最終的にどのような結末を迎えるに至ったのか。本書はこの設問に対して江南および浙江、江西、福建の華東地方を地域対象にした三篇の論文によって追究し、それらを第Ⅱ部「近代中国の溺女問題とその改革」に収めた。
本書は以上の限られた対象の分析を拠り所として中国が二十世紀前半に「近代国家」の建設をめざす 過程において、このような郷村社会のあり方をいかに改編しようとしたのか、またその意味するところは何であったのかという問題についてわずかながら明らかにした。当然のことながら、二十世紀前半の郷村のあり方を分析する対象は他にも数多ある。本書で対象を郷役と溺女の二つに、しかも地域を限ったのはもとより筆者の力の限界によるものであり、これらの分析だけでもって中国の国家―社会をめぐるこれまでの大きな議論に軽々しく加わることは慎まねばならない。ただ本書によって析出された事実がこの論争の新たな展開に何かしらの素材を提供できるのであれば、幸いこれに過ぎることはない。
中文・英文目次
鄉役與溺女:近代中國鄉村管理史研究
Rural Clerks and Infanticide :A Historical Study of the Village Control in Modern China
第Ⅰ部 近代中國的鄉村管理與鄉役
The Village Control and Rural Clerks in Modern China
第一章 蘇州的鄉村管理與鄉役
The Village Control and Rural Clerks of Suzhou
第二章 從松江的鄉役看的土地改革前史
The Preceding History of the Land Reform Inspected through the Rural Clerks of Songjiang
第三章 嘗試復原近代蘇州的管理社會
A Test of Reconstructing the Management Condition in the Rural Society of Modern Suzhou
第Ⅱ部 近代中國的溺女問題與其改革
The Infanticide Problem and its Improvement in Modern China
第四章 溺女與其源流
The Situation of the Infanticide and its Pedigree e
第五章 清朝的溺女問題對應
Qing Dynasty’s Dealings with the Infanticide Problem
第六章 近代中國的溺女問題改革
The Improvement of the Infanticide Problem in Modern China
第Ⅲ部 史料:史料:基於詢問調查的口述紀錄
The Historical Materials:The Interview Transcripts
第七章 關於松江鄉役的口述紀錄
The Interview Transcripts on the Rural Clerks in Songjiang
第八章 關於蘇州鄉役的口述紀錄
The Interview Transcripts on the Rural Clerks in Suzhou
第九章 關於蘇州溺女役的口述紀錄
The Interview Transcripts on the Infanticides in Suzhou
Rural Clerks and Infanticide : A Historical Study of the Village Control in Modern China