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近世の地誌と文芸

――書誌、原拠、作者――

近世の地誌と文芸

◎近世地誌の沃野を切り拓き、地誌を「文学」として捉える画期的論考なる!

著者 真島 望
ジャンル 日本古典(文学) > 近世文学
日本古典(文学) > 近世文学 > 総記・論集
出版年月日 2021/03/25
ISBN 9784762936555
判型・ページ数 A5・490ページ
定価 13,750円(本体12,500円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

【主要目次】
凡 例

序 論
 一 問題の所在と先行研究          
 二 「文学」としての地誌
 三 他の文芸との接点(1)地誌の引用(2)地誌の全面的利用(3)趣向としての利用
 四 本論の構成

第一章 幕府御大工頭鈴木長頼の文事――幕儒の学問と地誌(一)――
 一 閲歴     
 二 諸家との交流    
 三 編著の特色と背景

第二章 『豆州熱海地志』の成立と展開――幕儒の学問と地誌(二)――
 一 鈴木秋峰『豆州熱海地志』について    
 二 『熱海地志』の生成
 三 後続作への影響

第三章 菊岡沾凉の俳諧活動――地誌作者菊岡沾凉の研究(一)――
 一 俳諧活動を中心とした事績(年譜)              
 二 考察――俳壇での孤立の実態――

第四章 享保絵俳書の誕生――地誌作者菊岡沾凉の研究(二)――
 一 その形態   
 二 その特色      
 三 先行絵俳書との比較
 四 露月絵俳書への影響

第五章 俳諧系譜『綾錦』諸本考――地誌作者菊岡沾凉の研究(三)――
 一 諸本     
 二 楠堂文庫蔵写本について

第六章 諸国説話集『諸国里人談』・『本朝俗諺志』と地誌
             ――地誌作者菊岡沾凉の研究(四)――
 一 先行研究   
 二 その概要と特徴   
 三 編纂の実態
 四 地方との接点 
 五 後続作への影響

第七章 自筆稿本『熱海志』について――地誌作者菊岡沾凉の研究(五)――
 一 近世の熱海  
 二 『熱海志』について 
 三 『熱海志』の特色
 四 生成の実態  
 五 自作への流用とその影響  
 翻刻(熱海志)

第八章 江戸名物と享保俳諧――絵俳書『名物鹿子』について――
 一 資料の概要  
 二 享保以前の江戸名物 
 三 『名物鹿子』の特徴
 四 編纂の背景   五 その影響

第九章 化政期の江戸名所と俳諧――万賀編『風流江戸雑話懐反古』を中心に――
 一 『風流江戸雑話懐反古』について     
 二 内容と特色  
 三 成立の背景

第十章 名所絵本『東国名勝志』と元禄地誌
 一 『東国名勝志』の概要       
 二 依拠資料(1)図様の典拠(2)本文の典拠
 三 受容態度と「東国」認識(1)継承する要素(2)捨象された要素
 四 『東国名勝志』とその時代     
 五 その影響

結 論 総括と今後の展望
 林家の学問と地誌 
 〈江戸〉文化の自覚と享保俳諧 
 「名所図会」の時代へ 
 今後の展望

初出一覧
あとがき
人名索引・書名索引

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内容説明

【序論 より】(抜粋)

 本論は、近世地誌を日本文学史上に置き直すための、基礎的作業を試みたものであり、近世地誌研究のいささか角度を変えた視点による序説とも言い得よう。
 ……かつて中村幸彦は、教訓書・見聞集などとともに、地誌・旅行記の類を、「著述目的は文学それ自体ではないけれども、その著述に当って、程度は様々ながら、文学創作意識の働いたもの」と定義される圏外文学の一つとした。その上で、それらは雅・俗双方の一般的文芸には乏しい諸要素(たとえば地誌ならば〝知識的興味〟)を備えており、これらも文学史研究に組み入れるべきことを提唱したのであった。本論はこの提言に刺激されつつ、少しでも前に進めることを目指す。名所(などころ)=歌枕の集成としての意味ももつ日本の地誌は、決して「圏外」ではなく本来的に文学作品であり、これを読むのは和歌という日本文化の精髄に触れる行為にほかなるまい。それを近世的枠組みの中で行おうというのが本論の試みである。
 具体的には、和歌・連歌の近世的変容とも言うべき俳諧と地誌との関わりを主軸として、その生成と伝播の様相を窺うこととしたい。近世に確立した新興文芸であり、和歌・連歌の価値観も内包する俳諧とそれに携わる者は、観念上の名所であった歌枕が、社会の政治的安定や経済発展をうけて実体化(名所化)してゆく時代にあって、鋭敏にその変化に反応し、向き合い、名所というものを探究することになる。その結果俳人が地誌を担うことになるのは、中世の連歌師の活動の延長上に彼らの動向を置いてみれば、至極当然のことで、その検討と解明を通して、地誌に現れる、その土地への興味の時代ごとの変遷や、そこに生きる人間の自己認識・歴史意識という、地誌が本来我々に語りかけるものについても可能な限り明らかにしたいと思う。
 そして、俳諧に着目する以上、その対象とする地誌は、これまで比較的多くの研究成果が蓄積される、幕府や各藩主導で編纂された官撰地誌ではなく、おのずと、民間の様々な知識階層による民撰地誌ということになる。(中略)
 また、地域的には、特に江戸文壇で活躍する人物の作品とその周辺を扱うこととする。これは、近世の首府でありながら、都市としては新興の、あえて言えば上方に対する後進地域であった江戸が、経済的・文化的発展を遂げてゆくなかで、そこに生活する人々の、自らの足下に対する意識に生じる変化こそが、近世的地域意識・歴史認識の特色を明快に示すことになると考えるゆえである。

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