目次
一 『春秋左氏伝』と現代の中国学
講演録 『春秋左氏伝』・『春秋正義』・『春秋集箋』 (野間文史)
注疏宋元版と校勘についての最新私見 (橋本秀美)
《春秋》と日本の年号 (水上雅晴)
二 南宋の士大夫・洪邁の学術
中国史研究者から見た南宋の知識人・洪邁と『夷堅志』 (須江 隆)
洪邁『容斎随筆』の三国論 (伊藤晋太郎)
洪邁学術思想初探 (田中正樹)
三 二一世紀に於ける『孟子』像の新展開――中国古典学と孟子――
五行から四端へ――孟子による子思思想の受容と改変―― (末永高康)
『孟子』の北宋を読み解く (市來津由彦)
シンポジウムの記録
あとがきにかえて
執筆者一覧
(二松学舎大学学術叢書)
内容説明
【はじめに より】(抜粋)
本書は、二松学舎大学東アジア学術総合研究所・共同研究プログラムに採択された『中国古典学の再構築』の成果報告書である。本研究プロジェクトは二〇一七年度から二〇一九年度までの三年間にわたるもので、各年度ごとに一度二松学舎大学で学術シンポジウムを開催し、それぞれ異なるテーマを設定して研究成果を公開してきたが、本書を構成する諸論攷は原則的にその際の口頭発表を論文に纏めて頂くように依頼したものである。(伊藤論文は書下し)。
本共同研究『中国古典学の再構築』を構想した問題意識は、端的に(あるいは聊か大仰に)いえば「中国古典学」研究の現状に対する危機感、及び最新の研究手法への期待、という相反する現状認識、学問の「古」と「未来」をより良い方法で「再構築」することを目指そう、というものである。学問の諸分野に於いて危機感を持ってしばしば指摘される現代の「古典」研究に対する冷遇と、より実学的で明確な功利性に即した学術への移行の傾向は、現実に基礎研究の世界に対する軽視の普遍化と結びついているように思われる。「古典」は、常に既に新たな可能性を包含しているからこそ「古典」となりえたのであり、「古典」の内に「新たな可能性」を見出せないのは果たして諸「古典」の問題なのであろうか。……初年度はシンポジウム「『春秋左氏伝』と現代の中国学」を開催した(具体的なプログラムは巻末の「シンポジウムの記録」を参照)。二年目のシンポジウムでは、近年注目を集め始めている志怪小説集『夷堅志』の著者である南宋の士大夫・洪邁をテーマに取り上げた。……最終年は、古典学の総括としてふさわしいテーマに『孟子』を選んだ。……それぞれのシンポジウムの成果は、本書の各論攷をご覧いただき、中国古典学研究の新たな息吹を感じていただければ幸いである。(代表 田中正樹)