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現地資料が語る基層社会像

――20世紀中葉 東アジアの戦争と戦後――

現地資料が語る基層社会像

◎「現地資料」の肉声に真摯に耳を傾け、激動の時代に翻弄された人々の営みをリアルに描き出す!

著者 笹川 裕史
ジャンル 東洋史(アジア)
東洋史(アジア) > 近現代
出版年月日 2020/12/15
ISBN 9784762966682
判型・ページ数 A5・292ページ
定価 8,800円(本体8,000円+税)
在庫 品切れ・重版未定
 

目次

序 章 (笹川裕史)

第Ⅰ部 戦争と動員
 
 第1章 戦時期日本の人口政策論と中国人口問題 (高岡裕之)
  第1節 戦時期中国人口論の前提     
  第2節 成立期の人口政策論における中国
  第3節 アジア・太平洋戦争期における人口政策論と中国   

 第2章 人民に奉仕する身体――中華人民共和国成立前夜の
                華東栄誉軍人学校における兵士の生活―― (丸田孝志)
  第1節 華東栄誉軍人学校の創設と発展       
  第2節 栄誉軍人たちの不満・不安
  第3節 栄誉軍人学校の対応            
  第4節 生活における自助努力
  第5節 栄誉軍人に対する社会の偏見と恐怖     
  第6節 人民に奉仕する身体の形成 
 
 第3章 中国農村の中の義務兵役制
         ――1950年代半ば、変容する基層社会像―― (笹川裕史)
  第1節 新華社『内部参考』の世界――「下情上達」の構図
  第2節 義務兵役制導入と農村幹部――せめぎあう権力と社会
  第3節 農村住民の反応――歓迎と忌避の諸相
  第4節 モデル地区の実践――大衆操作と相互監視の技法
  おわりに――従軍できなかった青年たちと中国社会

 第4章 戦争、動員と地域社会――日中戦争時期から冷戦時期の金門島―― (山本 真)
  第1節 1930年代前半までの金門島の社会と経済  
  第2節 日中戦争下の金門島――日本による支配と開発、徴用
  第3節 国共内戦期の金門島――民衆生活の新たな危機
  第4節 冷戦初期の金門島――国民党政府による動員と開発 
  
第Ⅱ部 社会と政治

 第5章 戦時戦後日本社会と露店商集団
       ――自治体公文書に残された「申請書」を手がかりとして―― (中村 元)
  第1節 「申請書」にみる戦時・戦後の露店商集団  
  第2節 戦前日本社会における露店商集団
  第3節 戦時日本社会と露店商集団         
  第4節 敗戦後の日本社会と露店商集団
  第5節 占領下の露店商政策と露店商集団 
    
 第6章 戦後上海の参議会選挙と「民意」の表出 (金子 肇)
  第1節 上海市参議会の職権と選挙         
  第2節 中央に対峙する地方の「民意」
  
 第7章 労働教養の誕生――変動期中国の政治運動と司法―― (金野 純)
  はじめに――中国共産党統治下における逸脱、労働、矯正
  第1節 「労働改造」の創出とその思想的背景
           ――毛沢東の人民民主独裁論と共同綱領――
  第2節 「労働教養」の誕生――行刑制度におけるグレーゾーンの拡大と社会統制 
 
 第8章 戦後内戦期の土地改革と農村社会認識
         ――「土地の平均分配」と「中農財産の保護」の間―― (三品英憲)
  第1節 土地均分政策と「中農財産の保護」      
  第2節 河北省の劉少奇と「富農」問題  

 第9章 1949年革命前後の土地改革と戦争
        ――湖南省許昌専区を中心に―― (泉谷陽子)
  第1節 内戦期の反匪反覇と減租減息   
  第2節 宝豊県趙官営   
  第3節 前線支援と飢饉
  第4節 土地改革の実施         
  第5節 土地改革と朝鮮戦争

あとがき(笹川裕史)
執筆者紹介

                                                            

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内容説明

【序章より】(抜粋)

新型コロナウイルスの感染拡大が世界を席巻するなか、米中対立の深刻化に歯止めがかからない。近年の米国の変調ぶりもさることながら、その間隙に乗じて強烈な対抗意識をもはや隠そうともしなくなった中国の強硬姿勢には、中国史研究者でなくても鈍感なままではいられない。私たちをとりまく国際環境は、中国の大国化を一つの震源として、いまや軋みをあげつつ急速に流動化し、私たちを見知らぬ不穏な世界へと招き入れようとしている。
 このような時代の転換点にたって、かつての東アジアで強大な勢力を誇った前近代の中華世界と今日の中国との類似性に着目し、その行動原理を歴史に遡って理解する必要を説く専門家も少なくない。しかし、私たちはむしろ今日の中国の個性を形作ったのは20世紀半ばという総力戦の時代であり、その生成の現場を改めて見つめ直すことが大切であると考えている。それは、米国による中国封じ込め政策を生み出し、中国が大規模な世界戦争の再発を近い将来に想定して固く身構えていた時代でもあった。
 20世紀の半ば以降、東アジア諸地域は日中戦争(1937-45年)、国共内戦(1946-1949年)、朝鮮戦争(1950-53年)という長期にわたって連続した大規模な戦争とそれに続く厳しい国際緊張を経験した。その経験が、地域ごとの偏差をともないつつも、戦時に適合した新たな社会秩序を生成させ、それぞれの戦後社会の枠組みを構築する契機となった。明示的かいなかは別にして、これが本書所収の各論文を基底において緩やかに貫いている共通認識である。本書は、前編著『戦時秩序に巣食う「声」――日中戦争・国共内戦・朝鮮戦争と中国社会』(創土社、2017年)の主題を引き継ぎ、中国・台湾および日本を対象として、戦争や国際緊張がもたらした社会変容の現場に視点を据えながら、そこに立ち現れる多種多様な人々の言説とその特質を追跡したものである。
 本書のタイトルについてあらかじめ断っておくと、ここでいう「現地資料」とは、現地に実際に赴いて調査・発掘したものだけを指しているのではない。もちろん、そうした資料も可能な限り駆使しているが、他方で、考察対象となる現場近くで記録・作成されながらも、何らかの事情によって現地以外の研究機関等に所蔵されるにいたった稀覯資料も含まれている。たとえば、近年の中国(大陸)では、現地の公文書館(檔案館)の利用が厳しく制約される傾向を強めており、本書所収論文の多くは、アメリカ合衆国、オーストラリア、香港などに足を運んで、そこに所在する研究機関等で調査・収集した資料にも依拠している。また、文献資料だけではなく、ここでは現地での聞き取り調査も「現地資料」に含めている。
 本書のねらいは、こうした「現地資料」に封印されている肉声に真摯に耳を傾け、その意味を解読したうえで、激動の時代に翻弄されつつ変化を遂げていく基層社会や現場の人々の営みをリアルに描き出すことにある。今日における人民共和国成立前後の歴史研究に即していえば、あれこれの抽象度の高い論理や図式、あるいは当時の有力な政治指導者たちの教条的な言説からはすでに解き放たれており、それぞれの現場で危機や困難に向き合っていた多様な人々に光をあてることが可能になっている。本書を通じて、その最前線の成果の一つを実感していただけるものと信じている。

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