内容説明
【本書より】
本研究は,主として太宗ホンタイジhong taiji(1592-1643)の治世 1626-1643)の清朝が,政権の基盤を確立するために,隣接するモンゴル諸勢力といかなる関係を取り結び,またある時はいかに対峙・対決し,政権内に取り込んで行ったかを検討し,そこからツングース系民族である満洲の皇帝が支配する清朝政権の特質を探求せんと試みるものである。したがってその視点は,モンゴル社会よりも,むしろ清朝政権の内部に向かっており,モンゴル民族史・モンゴル地域史に留意しつつも,清朝国家論の立場から研究を進める。本書をまとめるにあたり特に心がけた点は,取り上げた事件・事象の最終的な帰着点を知っている現在の我々の視点からではなく,当該時期の対モンゴル政策の当事者である清朝皇帝の視点から歴史を叙述することであった。事態の行く末を知らない彼らは,八旗の権力分散的な情況を乗り切るために,そして外部勢力と対峙・対決するために,モンゴル諸部に対してあらゆる方策を模索しながら働きかけていたのであり,彼らの不断の営みが清朝の国家像を強く規定していったのである。その営為や,その後の清朝の内陸アジアへの進出は,決して「明白なる運命」に基づきなされたものではなかった。この点をいささかでもくみ取っていただけたならば,本書のもくろみはまずは成功したと考える。