目次
第一節 西晉「朝」辭賦文學研究とは
第二節 左思の生涯とその文學
第三節 西晉文學び辭賦文學研究における「三都賦」
第四節 本書の構成と目的
附 節 辭賦よりみる「三國志」――「三都賦」の概要
附録① 【左思及び「三都賦」關係年譜】
附録② 【三國時代から西晉時代の各王朝の領土の變遷に關する地圖】
上篇 「三都賦」前後の賦作とその周縁
第一章 漢賦からの繼承と發展
第一節 漢賦からの繼承
第二節 漢賦からの發展
(1)作品内の描寫範圍の場合
(2)宮殿描寫の場合
(3)狩獵描寫の場合
第三節 「三都賦」における左思の苦心
第二章 「齊都賦」著述から見る「三都賦」の構想
第一節 「齊都賦」の著述とその散逸
第二節 左思「齊都賦」の構成及び内容
第三節 徐幹「齊都賦」との比較
第四節 左思「三都賦」との比較
第五節 左思における都邑賦の位置附け
第三章 「三都賦」以後の都邑賦の展開とその變容
第一節 「三都賦」以前の都邑賦
第二節 「三都賦」以後の都邑賦
第三節 都邑賦の傳統への回歸
第四節 鮑照「蕪城賦」に見る「三都賦」
第五節 廋信「哀江南賦」に見る「三都賦」
第四章 兩晉時期の文章創作における「紙」
第一節 書寫材料の交替に關する從來の理解
第二節 「書籍」「書簡」への限定的利用――後漢から三國時期
第三節 文人による「紙」への注目――西晉時代
第四節 文章創作における「紙」利用の一般化――「晉宋之際」
第五節 文章創作と「紙」の關係
第五章 後漢から兩晉時期における賦注の確立について
第一節 兩晉時期以前の賦注の發生と展開
第二節 曹大家「幽通賦注」より始まる後漢三國時期の賦注
第三節 韋昭や郭璞の注釋活動に見る賦注形式の確立
中篇 「三都賦」と西晉武帝期の政治・學術
第六章 左思「三都賦」は何故洛陽の紙價を貴めたか
第一節 「三都賦」に對する同時代評價
第二節 左思「三都賦序」に見る著述動機
第三節 地方志編纂の流行
第四節 西晉王朝の平呉政策
第五節 張華による『博物志』編纂と左思
第七章 「三都賦」劉逵注の注釋態度
第一節 劉逵注の特異性
第二節 劉逵注の引用書の傾向
第三節 劉逵の官歴
第四節 圖書蒐集事業と知的欲求の向上
第八章 「三都賦」と中書省下の文人集團――張載注の分析を中心に
第一節 「魏都賦」張載注の特徴
第二節 「三都賦」の著述と中書省
第三節 中書省を據點とした著述活動
第九章 左思「三都賦」と西晉武帝司馬炎
第一節 「三都賦」の多面的特徴
第二節 寫實性び類書的性質の成立背景
第三節 西晉王朝の正統性の主張の背景
第四節 「三都賦」に見える司馬氏一族への配慮
第五節 西晉武帝期における中書省の役割
第六節 左思「三都賦」と西晉武帝司馬炎
結 論
第一節 本書の總括――洛陽の紙價をして貴からしめたもの
第二節 「三都賦」の汎用性
第三節 六朝辭賦文學の再評價
下篇 譯 篇
『文選集注』を底本とした「三都賦」通釋び解説
凡 例
「三都賦序」
「蜀都賦」
「呉都賦」
「魏都賦」
引用び參考文獻一覽
あとがき
初出一覽
索 引
内容説明
【序論より】(抜粋)
本書は、「西晉時代に創作された辭賦作品」を網羅的に考察對象としている譯ではない。極端に言えば、西晉武帝期に活した左思(二五三~三〇七)の手になる「三都賦」のみを考察したものとすべきかもしれない。本書は敢えて西晉「朝」辭賦文學研究と銘打ったが、これには幾らかの理由がある。先に、本書は「三都賦」を考察對象の中心に据えることを述べたが、その際に避けて通ることのできないのが、左思が該賦の創作時に所屬した官僚組織としての中書省、ひいては武帝司馬炎によって建國された西晉王朝なのである。作者と王朝との關係に鑑みれば、「三都賦」の著述と西晉王朝とは密接不可分な關係にあると考えられるのである。無論、西晉時代に創り出された賦が、總じて西晉王朝との關係のもとに理解できるのであれば、わざわざ王朝を意味する「朝」を冠する必要はない。しかし、當時の賦を俯瞰したとき、そのすべてに西晉王朝の姿を見出すことができないのである。例えば、西晉時代、とりわけ武帝司馬炎の太康年間(二八〇~二八九)に行われた文學活動では、抒情の重視や文彩の尊崇といった側面や、所謂「建安風骨」を繼承するといった側面など多岐にわたる作風の展開が認められる。つまり、當時はある特定の文學思潮に向かって、すべての文人が必ずしも一樣に邁進したのではなく、それぞれに固有の志向に從って創作活動が行われていたのである。このように、西晉の賦作は多岐にわたるものであるがために、これを一括りに「西晉辭賦文學」とすることには非常な困が發生するのである。では、「三都賦」研究とすればよいかというと、これも必ずしも妥當ではないように思われる。該賦を仔細に分析してみれば、そこにはやはり左思が活動した西晉という時代の思潮、とりわけ西晉司馬政權の存在をそこかしこに認めることができるのである。詳細は本論に讓るが、該賦の中に當時の時代思潮を認めることができるとき、この作品を單純に個別の作品研究として取り扱うことに違和感を覺えるのである。
「三都賦」という賦作品と西晉王朝を中心とした時代思潮との接點を摸索したとき、西晉朝辭賦文學研究、このように本書を位置づけることが最も妥當だと感じられたのである。「三都賦」の著述の裏側に見え隱れする西晉王朝の存在。これこそが、本書を「西晉朝辭賦文學研究」と銘打つ所以である。
本書は上・中・下篇の三部から構成される。上篇は「「三都賦」前後の賦作とその周縁」と題し、「三都賦」そのものの考察に先立ち該賦の前後に創作された辭賦作品との關わりについて考察し、併せて當時の創作活動と密接に關係したであろう書寫材料と注釋について檢討を行った。中篇では、「「三都賦」と西晉武帝期の政治・學術」と題し、「三都賦」の著述について、從來は見過ごされがちであった、同時代に施された諸注釋やその著述が行われた場など、その著述の背景を幅廣く、西晉武帝期の政治と學術との關わりから考察を試みた。最後に下篇として、『文選集注』を底本とした「三都賦」の通釋とその内容に關する解説を施した。以上が本書の概要であるが、そのねらいは次の點にある。すなわち、一つには西晉文學全體の中での「三都賦」の價値を明確にすることを目指すとともに、西晉文學そのものについても新たな視座を獲得することを目指した。これは主に共時的側面からの考察である。そして、二つには從來とかく等閑視されがちであった三國時代以降の辭賦文學について、どのように展開したかを「三都賦」を基點として通時的に見ることで、辭賦文學研究にも新たな展望をもたらさんことを目標とした。これらを通して、從來は自明のこととされる「洛陽の紙價をして貴からしむ」る背景についても、 より明瞭になるのではないかと期待する。