目次
第一部 漢代の「文」意識
第一章 賈誼の賦をめぐって――『楚辞』と漢賦をつなぐもの――
第二章 「文」概念の成立における班固の位置――六朝文論の原点として――
第二部 建安と文学
第三章 建安における「文学」
第四章 曹操と楽府――「新声」「新詩」の語をめぐって――
第五章 経国と文章――建安における文学の自覚――
第六章 曹植における楽府の変容――「興」的表現と物語性をめぐって――
第三部 『文選』編纂をめぐる「文」意識
第七章 『文選』序文にみる六朝末の文学観
第八章 『文選』序文と詩の六義――賦は古詩の流――
第九章 『文選』編纂に見る「文」意識
第四部 謝霊運詩論
第十章 謝霊運詩考――刹那と伝統――
第十一章 謝霊運詩における「理」と自然――「弁宗論」及び始寧時代の詩を中心に――
付 論
第十二章 日本における文選研究の歴史と現状
第十三章 (書評)文学研究者への挑戦状
――渡邉義浩『「古典中国」における文学と儒教』――
文献表
初出一覧
あとがき
内容説明
まず第一部において、漢代における文概念の確立の過程をのべる。
第一章では、賈誼を対象に、その賦にみえる文学性の意味について論じる。
第二章では班固を対象に、班固の文論が、それ以後の儒教的文意識の根幹になったことを述べる。第二部においては、六朝文論の原点である建安時代について論じる。
第三章では、文学史の画期である建安の意味を、特に曹操の楽府と曹植の五言詩のもった新しさを通して考察した。
第四章では、曹操の楽府を対象に、それを楽府の本来的意味である王朝の楽曲の整備という視点から論じた。
第五章では、建安期の文学意識の成熟について、曹丕の『典論』「論文」と、曹植の作品世界の想像性について論じる。
第六章では、その曹植の作品のもつ文学性を、自然描写の特徴と、物語空間の創作と言う視点から論じた。
第三部では、『文選』が、作品集というよりも、「文」のスタンダードを「集」めたものであり、その編集には強い儒教的文意識が働いていたことを、序文の全体像から(第七章)、「賦は古詩の流」という言葉と賦という文体の持った意味から(第八章)、そして戦国的価値を持った文からの脱皮を表すと考えられる序文中の特殊な「文」の意味するものから、考察した。
第四部には謝霊運詩論を載せる。最後に付論として二本を載せる。…第十三章は、渡邉義浩氏の『「古典中国」における文学と儒教』の書評である。実は本著はほぼすべての論考が、何らかの意味で渡邉氏の研究と関わっている。特に儒教という価値を骨格に置く視点は、氏の独創であり、かつ筆者も強く共感するものである。氏が歴史学的視点から構築した「古典中国」における文学と儒教の構造を文学的視点から再構築してみたのが本書である。その意味で、本書の基本的問題意識は、この書評の中に在ると言っても良い。