目次
序(田仲一成)
第一部 中国古典散策
Ⅰ 望郷
Ⅱ 諸葛孔明(1)―天下三分の計―
Ⅲ 諸葛孔明(2)―天下三分から漢王朝の再興へ―
Ⅳ 諸葛孔明(3)―泣いて馬謖を斬る・孔明の信賞必罰
Ⅴ 諸葛孔明(4)―秋風五丈原―
Ⅵ 曹操(1)―英雄曹操(前)―
Ⅶ 曹操(2)―英雄曹操(後)―
Ⅷ 曹操(3)―奸雄曹操―
Ⅸ 『資治通鑑』の曹操観
Ⅹ 唐詩二則―敦煌唐詩の校正資料価値
Ⅺ 唐詩―望郷二題
Ⅻ 唐詩によまれた「黄葉」
ⅩⅢ 漢語・漢字あれこれ―話し言葉と書き言葉
ⅩⅣ 誤字発見の愉しみ
ⅩⅤ 房子と屋子
第二部 敦煌歌辞訳注
Ⅰ 孟姜女六首
Ⅱ 開海棠二首
Ⅲ 傷寒三首
Ⅳ 宮辞八首
第三部 敦煌文献の環境
Ⅰ 敦煌変文の説唱者と聴衆
Ⅱ 書評:兪暁紅著『仏教と唐五代白話小説』
Ⅲ 書評:伊藤美重子『敦煌の規範教育――童蒙教訓書の世界』
第四部 敦煌禅研究
Ⅰ 北宗「五方便」と神会「五更転」―唐代前期禅宗の民衆教化―
Ⅱ 敦煌禅の「無念」について
Ⅲ 初期禅宗の「安心」「守心」と楞伽経
収録論文初出一覧
年 譜
著作目録
あとがき(中鉢信子)
内容説明
【序より】
中鉢さんは、ライフワークというべき水滸伝研究を出版されたあとは、民間文学の宝庫である敦煌 文献の研究に向かわれ、敦煌歌謡の分析や敦煌文献に見える初期禅宗(所謂「敦煌禅」)の研究に専念された。巻末のご家族の「あとがき」に見えるように、禅宗の研究は、晩年の中鉢さんの最大の研究テーマであった。その成果を一書にまとめる暇もなく急逝されたのは、惜しみても余りあることである。ただ幸い、この数年間、中鉢さんご自身がご自宅で、敦煌歌辞を読む読書会を主催され、その成果が『敦煌作品研究』と題する限定版の雑誌(1-3号)に発表されている。そこには、敦煌歌謡について中鉢さんが付けた訳注、及び10年ぐらい前から着手されていた敦煌禅に関する研究論文が残されている。また、中鉢さんご自身は、晩年に入って、専門論文よりは、一般向けの本の形で、中国の小説を解説したいという志を抱かれ、そのために『中國古典散策』と題する連載随筆を執筆中で、その原稿を筐底に蔵しておられた。このたび、ご長女の朋子さんから、思いがけず、『中國古典散策』の原稿を示された。私としては、この原稿を見て、亡友に再会できたような喜びを感じるとともに、何とかこれを本の形にして世の中に残したい、と念願するに至った。ただ、この連作自体が未完に終わっており、分量も一書を成すには十分でないという難問にぶつかり、しばらくの思案の結果、『中國古典散策』の原稿と、既刊の学術誌や『敦煌作品研究』に載る敦煌歌謡の訳注、敦煌研究の専著に対する書評、および禅宗関係の論文などを併せて『遺稿集』として刊行することとした。(日本学士院会員 東京大学名誉教授 田仲一成)