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丸山昇遺文集 第一巻 1951-1967

丸山昇遺文集
著者 丸山 まつ
ジャンル 中国古典(文学) > 近現代
出版年月日 2009/07/07
ISBN 9784762928680
判型・ページ数 A5・554ページ
定価 11,000円(本体10,000円+税)
在庫 品切れ・重版未定
 

内容説明

『丸山昇遺文集』 に寄せて・代序 (一)木 山 英 雄 

『丸山昇遺文集』は、中国近現代文学わけても魯迅の研究者として知られる故人が生前に出した著書に未収録の遺作を、翻訳や一部の特色を欠く例外を除いて、極力網羅のうえすべて執筆時の順に排列し、全三巻に分けて刊行する予定と承知している。企画は、まつ夫人の健気なる意志により、発起立案から実際の手作業まで悉く彼女のもとで進捗中であるが、必要となれば、一門の受業生をはじめ丸山昇の遺徳を慕う協力者はいくらでもいそうであり、すでに親身な片腕のことも聞き及んでいる。かくいうわたしは、同業の後輩として序の執筆を仰せつかった。柄にもない役割とはいえ、幸い著者の斯この道における声望は、もっと偉い人の序で箔をつけることなんか必要としないし、そもそもそんな習いに馴染む著者でもない。わたしにしたところで、著書に漏れた遺文相応に専門研究の規格からはみ出したり規格以前に止まったりする内容を予想すればこそ、追悼会で長い弔詞を献じた後にも、まだ言うべき何かを考えられようかというものである。

 著書未収の作から包括的な一書を編むことは、じつは晩年の丸山さん自身がすでにやっていて、「著書としては十冊目」という六百頁近い大冊(『魯迅・文学・歴史』二〇〇四年、汲古書院)が生前最後の本になった。その編成は、主として中国の文化大革命終結以後の作から選んだものを、「魯迅散論」「中華人民共和国の知識人」という、このままで、魯迅ならびにその周辺への関心と、魯迅研究者としての「文化大革命」に対する疑問に始まりさらに中国社会主義の批判的検証へと向かった関心とからなる、前九冊の主要テーマを要約しうるような二分類に、もうひとつ「回顧と感想」の部を加えた形になっている。それが半世紀に余る研究生涯の本人による最後のまとめ方だった、とそう思ってみることもできる。しかし、最後になったのは事実上のことにすぎないので、その生涯にはもっと前もあれば、僅かながらさらに続きもあり、発表ごとにきちんと保存されていたらしい大量のファイルの中身には、もしもさらに時間があったら、前十冊までとはいささか違った趣の書物として、少なくともあと一冊くらいには編まれたかもしれない類の文書がまだ残っている。といった次第で、冒頭に記したような方針による編年体の遺文集は、丸山昇という学者の向後ますます稀少になるであろう面目を、かえって鮮明に浮かびあがらせてくれることを期待させる。

 今わたしの手元にある第一巻の校正刷りと、丸山さんが東京大学に次いで桜美林大学をも停年退職した折りに作って周囲に配った「著訳一覧(第二稿)」(二〇〇二)とから、これらの遺文のうちの特徴的なものを推測すれば、第一に、彼を中国革命や魯迅に向かわせたそもそもの動機にかかわる学生運動や、それ以来の政治的な軌跡を直接反映するもの、第二に、最初の著書(『魯迅―その文学と革命』一九六五、平凡社)で魯迅専門家の名乗りをあげるまで、主として魯迅研究会というサークルを舞台に演じた試行と格闘の迹、ということになろうか。もちろん両者は互いに別個のものではなく、いったい現代中国をめぐる研究と政治の濃厚な関連性はいまさら言うもおろかなことでもあるが、ほかならぬ両者が関連しあうそのところで、彼が驚くほど変わらぬ態度や考え方を維持したことを、この『遺文集』は前十冊の著書にまさる雄弁を以て語るのではなかろうか。そうした関連の肝心な初発のあたりを、わたし自身は生マルルヤ晩ク、二、三年の遅れで直接に知ってはいないのだけれど、いやむしろそうだから、この遺文集の読者にとってもそれは有益な傍注となりうるのではないかと思う。そこでわたしは、自分が直接には経験していない魯迅研究会の初期の状況と丸山昇との交わるところを、この機会に確かめておくことにした。

 上に分類した第一の方面については、今や編者のまつ夫人その人が最も確かな記憶の保持者ということになるので、別に然るべき言及が期待できよう。それにつけて、下文で主に取り沙汰するつもりの、彼を魯迅研究会の中心に押し出すことになる小さな事件後ほどなく東大駒場の同窓会館で行われた、ご両人の賑やかな結婚式が思い出される。たしか、すでに仏文科を卒業して教職に就いていた夫人を、わたしはその時はじめて末席から見知ったにすぎなかったが、スマートな長身の彼と小柄で弾むような感じの彼女が、学生運動で結ばれた男女の同志というのをまるで絵に描いたみたいにそれは元気な眺めだった。その後彼女には彼女の生の履歴があり、彼の歿後に実に久しぶりの思いで遺文を残らず読み暮らすうちに、彼の受業生たちの言いぐさによればあらためて「惚れ直し」、かくは本集の発起となった由。たぶんそれらは、彼女自身の青春の甦る契機でもあったのだろうとしても、なにしろちかごろうるわしい話である。さらに付言すべきは、彼の最後の自編集に引き続き出版面で一肌脱いでくれる、汲古書院の坂本健彦前社長も、神田猿楽町の大安書店店員時代からわたしらはずいぶん厄介になったが、丸山さんがメーデー事件で逮捕された際の東京都学連のリーダーの一人で、遙かにそんな立場上の責任にまで感じるところあってのことだそうである。(待続)

 

【内容目次】

『丸山昇遺文集』に寄せて・代序(一) 木山英雄

一九五一年 (昭和二六年)

「わが友に告げん」から:拘留理由開示公判の陳述/

獄中メーデーの記録/駒場の学友へのメッセージ

竹内好氏を乗り越える道「現代中国論」をよんで

一九五二年 (昭和二七年)

『邪悪な精神』との斗い―中国的あるいは魯迅的ということ/

研究室への葉書/島次男への手紙

或る断面/獄中の記/十一月六日公判における陳述/

たたかう母にささげる歌

一九五三年 (昭和二八年)

一号の津田君の論文について(「魯迅研究」2)/獄中の卒業論文/

歴史の証言

中村真一郎氏の魯迅観への反駁/魯迅を学ぶこと/

魯迅研究会の歩みから/学会の感想(「魯迅研究」6)

一九五四年 (昭和二九年)

書評 尾坂徳司「丁玲入門」/江実君の論への感想/

『徐懋庸…』の仮借なさについて

 狂人日記の時代をめぐって

一九五五年 (昭和三〇年)

書評「現代中国の作家たち」について/我々はどうすればいゝのか(「魯迅研究」11

 レポーターとして(「魯迅研究」13

一九五六年 (昭和三一年)

「吶喊」の時期における魯迅(修士論文):

第一章「狂人日記」「随感録」その他:第二章「孔乙己」「薬」

「明天」「一件小事」「頭髪的故事」「風波」「故郷」「阿Q正伝」:

第三章「端午節」「白光」「兎和猫」

「鴨的喜劇」「社戯」

必要な人間への対決―魯迅研究の問題点/

どんなものを読めばよいか日本における魯迅

一九五七年 (昭和三二年)

山節考など

一九五八年 (昭和三三年)

抗日戦争と革命戦争の時代(「現代の中国文学」六章)/

「阿Q正伝」の含む問題 

私の望むこと―土手節への答とあわせて/

編集後記(「魯迅研究」20)/魯迅(人と作品・新しい視点)

「講座・現代倫理」より/魯迅と厨川白村/「酒楼にて」について

一九五九年 (昭和三四年)

「奔月」ノート/木山君と食い違ったところ/岡崎俊夫氏をいたむ/

編集後記(「魯迅研究」23

「野草」に於ける魯迅/書評 周而復「上海の朝」

一九六〇年 (昭和三五年)

「我的失恋」と「幸福的家庭」/編集後記(「魯迅研究」25)/

書評 さねとう・けいしゅう著「中国人日本留学史」/

マルクス主義文学理論と魯迅/魯迅とマルクス主義文学論/

現代中国文学の中の魯迅/ 魯迅の文学観の性格について/

中国研究者の戦争責任/編集後記(「魯迅研究」27

一九六一年 (昭和三六年)

魯迅の家(上)―魯迅伝ノートⅠ/今村「魯迅思想の形成」・尾上「文芸界の思想闘争」評/魯迅の家(中)―魯迅伝ノートⅡ/茅盾「子夜」/プロレタリア文学運動と蔵原理論/魯迅の家(下の1)―魯迅伝ノートⅢ

一九六二年 (昭和三七年)

 同伴者作家と魯迅/中国文学に現れた日本像/

岡崎俊夫「天上人間」を読んで/「ステートメント」を読ん

一九六三年 (昭和三八年)

「五・四」について思うこと/魯迅の家(下の2)―魯迅伝ノートⅣ/

幻版「中国現代文学選集」/魯迅と光復会について/

異議あり(「魯迅研究」33)/編集後記(「魯迅研究」33

一九六四年 (昭和三九年)

魯迅と「革命」(「魯迅選集」第五巻付録)/謝冰心「わかれ」解説/

魯迅における革命の意味

一九六五年 (昭和四〇年)

「中間人物論」批判が提起している問題/編集後記(「魯迅研究」34)/「魯迅―その文学と革命」あとがき

 趙樹理「小二黒の結婚・態度決定」解説/中国語のすすめ/

 最近の中国文学雑感

一九六六年 (昭和四一年)

書評 竹内実・武田泰淳著「毛沢東 その詩と人生」/

書評 中川俊編「魯迅年譜」/編集後記(「魯迅研究」35)/

武田泰淳 「司馬遷―史記の世界」/中国文学のスケール/

「魯迅展」についてその他/周揚批判の意味/

書評 郭沫若史劇集①「棠棣の花・屈原」/

日本の現実とのかかわり合いをみつめて/

魯迅について―その死後三十年に/魯迅とトルストイをめぐって/

魯迅・周揚と国防文学論戦/金敬邁「欧陽海の歌」について/

魯迅「祝福」/現代文学の問題(「中国文学論集」)/

魯迅伝への一視角/魯迅にとって「革命」とは

一九六七年 (昭和四二年)

孫文について(「中国語」読書案内1)/

魯迅(「中国語」読書案内2)/毛沢東(「中国語」読書案内3)/

辞書について(「中国語」読書案内4)/今村氏の「感想」に答える/

学問としての文学研究/文化革命のなかの文学者たち/

外国人の書いたルポルタージュ(上)(「中国語」読書案内5)/

陶晶孫「日本への遺書」(「中国語」読書案内6)/

「三十年代」についての走り書き/内山完造「花甲録」

「中国語」読書案内7)/外国人の書いたルポルタージュ(中)(「中国語」読書案内8)/村松暎著「毛沢東の焦慮と孤独」についての

の意見/外国人の書いたルポルタージュ(下の1)(「中国語」読書案内9)/外国人の書いたルポルタージュ(下の2)

(「中国語」読書案内10)/佐治俊彦への手紙

あとがき 丸山まつ

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