目次
第一章 睡虎地一一号秦墓竹簡「編年記」よりみた墓主「喜」について
第二章 湖北における秦墓の被葬者について
――睡虎地一一号秦墓、被葬者「喜」と関連して――
第三章 楚・秦・漢墓の変遷より秦の統一をみる
――頭向・葬式・墓葬構造等を通じて――
第四章 戦国楚の木俑と鎮墓獣について
第五章 戦国秦漢の墓葬に見る地下世界の変遷
――馬王堆漢墓を手がかりに――
第六章 漆器烙印文字に見る秦漢髹漆工芸経営形態の変遷とその意味
第七章 「㳉」について
――『秦律』「效律」解釈を通じて――
第八章 睡虎地秦簡にみる秦の馬牛管理
――龍崗秦簡・馬王堆一号漢墓「副葬品目録」もあわせて――
第九章 睡虎地秦簡よりみた秦の家族と国家
第一〇章 睡虎地秦簡における「非公室告」・「家罪」
あとがき・編者後記・英文目次・中文目次・索 引
内容説明
【解題に代えて より】(抜粋)
本書は、元明治大学文学部教授・松崎つね子氏が公刊した論考の中から一〇編を選んで、一書にまとめたものである。松崎氏は病気のため、二〇〇二年度を以て明治大学を退職されたが、在職中に数名の大学院生等に論考をまとめる意思のあることを述べていた。ただ、病気のため、退職後、論考をまとめて公刊することが難しい状況であった。また、『睡虎地秦簡』(明徳出版社、二〇〇〇年)の著作があるように、松崎氏は睡虎地秦簡を用いた研究でも学界に知られていたが、退職と時を同じくして張家山漢簡「二年律令」の公開があった。そのため、内容上、一書にまとめるにあたっては睡虎地秦簡だけではなく、「二年律令」の内容を踏まえた書き直しを考慮する必要などもあったため、退職後間もなくの出版は断念せざるを得なかった。ただし、本書に収めた論考を一読すればわかるように、松崎氏の睡虎地秦簡を用いた論考は、必ずしも「二年律令」の内容を踏まえなければならないという内容ではない。
その点でいえば、同種の史料としてひとくくりにされがちな睡虎地秦簡と張家山漢簡の史料的性格の差異を明確化しうる意義がある。また、実際に日常的に松崎氏の講義などを聞いていた人間にとっては、漆器や墓葬といった考古学的資料を大量に用いた議論を展開し研究を進めていた印象も強い。事実、論文もそうした内容のものがかなり多く、これらは二〇一六年現在、根拠となった考古学的資料はやや古めではあるものの、学術的価値が失われているとは考え難い。さらに状況を大きく変えたのが里耶秦簡の公開である。二〇〇三年にごく一部の内容が公開された里耶秦簡は、その後の湖南省文物考古研究所編『里耶秦簡 壱』(文物出版社、二〇一二年)の出版などによってその内容が明らかになってきたが、統一秦の公文書群として貴重であるばかりか、かつての楚領域の中に存在した秦の遷陵県の公文書群であるという史料的性格が、松崎氏の論考の論点と関わるところが少なくなかった。
・・・なお、収載した各論考については、前述した通り、松崎氏ご本人が大幅に原稿に手を入れることが難しい状況であることに鑑み、基本的に誤字脱字等の訂正と、語句のある程度の統一、ならびに図表の取捨選択を実施した他は、初出時のままとしてある。・・・里耶秦簡に残された行政文書や帳簿類は、松崎氏の重視した基層社会の家族実態を明らかにする材料を含む可能性がある。その意味で、論文の公表からすでに三〇年前後が経過してはいるが、その手法や視点は振り返るに足る価値を有していよう。