内容説明
【主要目次】
第一部 『名公書判清明集』の世界
第一章 『清明集』の世界へ――定量分析の試み
一 『清明集』の全体像
二 地名の分析
三 人名の分析
四 その他の要素の分析
第二章 胡石璧の「人情」――『清明集』定性分析の試み
一 「人情」論争
二 胡石璧の判語における「天理」「義」「疾悪」
三 胡石璧の「人情」
四 蔡久軒の「天理」と「人情」
第三章 劉後村の判語――『清明集』と『後村先生大全集』
一 判語作成の時期
二 判語の書式上の特徴
三 劉後村の判断基準
第四章 南宋判語にみる在地有力者、豪民
一 先行学説と史料研究
二 南宋時代の判語に見える在地有力者
三 「豪民」の特徴的活動
補論 中国社会史研究と『清明集』
第二部 『袁氏世範』の世界
第五章 『袁氏世範』の研究史と内容構成
一 研究史と課題の設定
二 『世範』の全体構成
第六章 『袁氏世範』の世界
一 『世範』著述のねらい
二 『世範』の世界
第七章 袁采の現実主義――『袁氏世範』分析への視点
一 『世範』の用語からみる論理構造
二 『世範』の理念と現実認識
第八章 宋代士大夫の「興盛之家」防衛策
一 中国史上の家について
二 家の存続
三 袁采の教訓
おわりに――防衛策の効果
あとがき/中文目次/索引
【「まえがき」より】(抜粋)
本書は南宋の『名公書判清明集』(以下『清明集』と略称)および『袁氏世範』の研究であり、その記述にもとづいて、著者たちの主張を研究した成果である。すなわち両史料に描き出された記事の全体像を把握し、同時にそこから著者である地方官たちの主張を体系的に読みとろうとした。著者たちは現役、退役の地方官(路・州・県のキャリア官僚)で、『清明集』では判決文の著者となり、『袁氏世範』では自身の一族のために家訓を残した。そこに共通しているのは、問題を解決しようとする真摯な姿勢とかなり率直な心情の吐露である。その意味で両史料はともに一級の史料であり、他に得難い史料であると評価できる。また宋代史のみならず、中国前近代史を研究する際に貴重な情報を提供してくれる。
本書は史料研究であると同時に、問題意識は地方官たちの主張の歴史的特質を考察するという所にも置かれている。地方官たちは裁判をはじめとする公務と日々の私的な家庭生活のなかで、宋代社会の現実をどのように認識し、どのように対処したのかを検討したかった。また、その主張は歴史的にどう位置づけられるべきかを考えたかったのである。言いかえれば、専制国家と基層社会の接点に位置する地方官が宋代の基層社会をどう認識し、どう判断し、対処したのかという問題の研究である。それは、これまでの研究の流れからいえば、私なりの社会史研究の一環である。しかし基層社会そのものの研究ではない。地方官の現実認識と判断の研究である。