内容説明
序論
第一編 古代巴蜀地域の開発
第一章 古代巴の歴史―巴人の分布に関する一考察―
第二章 秦の蜀開発と都江堰―川西平原扇状地と都市・水利―
第三章 鄭国渠と都江堰―戦国秦の水利開発―
第四章 漢代四川盆地丘陵地の開発
第二編 漢代北方辺境地域の開発
第一章 漢代北方辺境と晋北地域―文献史料を手がかりに―
第二章 漢代晋北地域の地域開発―現地視察をふまえて―
第三編 古代江南の開発
第一章 范蠡三徙説話の形成―水上交通路との関係を中心に―
第二章 銭塘江逆流と秦漢時代の江南―鑑湖創設をめぐって―
第四編 植物からみる地域開発の多様性
第一章 イモからみた秦漢時代の巴蜀
第二章 中国史における芋類の地域性
―四川と江南の比較を通して―
第三章 黄河下流域における沙地利用の歴史的変遷
―祭祀の場から落花生導入まで―
終論
あとがき
英文目次
中文概要
索引
【序論より】(抜粋)
本書の目的は、古代中国、主として秦漢時代における地域の開発が、各々の地理条件・自然環境とどのように関わりながら展開したのかを水利を軸に明らかにすることにある。
中国は、異なる自然環境をもつ多様な地域から成り立っている。このような各地の自然・文化・経済の多様性を無視して、中国社会を一様に論じることはできない。これは古代においても同様である。本書では、地理的な条件の違いに基づいて、地域を細分化し、できる限りミクロな視点で地域開発をとらえていきたい。以上の課題を追究するにあたり、水利の問題は重要な鍵となる。河川の水量や、河の流れる道筋は気候(雨量や乾燥の度合い)や地形(土地の起伏)などの自然条件に規定されるため、各地域で展開した水利事業の分析を通して、地域開発を具体的にとらえることが可能となる。
古代中国を対象に地域分析を行うには、史料上の限界が存在する。古代史の研究を進める際に用いる史料としては、『史記』『漢書』等の正史を始めとする諸文献に加え、近年では出土文字資料(主として簡牘資料)が多く出現している。しかし、例えば、地方志を通じて、県レベルの物産や水利施設などの細かい情報を得ることが可能な明清史の研究に比して、史料条件は大きく劣ると言わざるを得ない。本書では、このような史料的限界を補うべく、現地調査の成果を資料として積極的に取り入れて行きたいと考えている。さらに、地域をとりまく自然環境に対して人々がどのように認識し、どのような関係を構築していたのか、いわゆる環境史の研究視点を用いることにより、古代における地域開発の多様性を描き出していきたい。
本書は四つの編から構成されている。第一編から第三編では、具体的研究対象として巴蜀地域・北方辺境・江南をとりあげて、各地の開発を論じる。また、第四編では、開発の一過程で選択・利用される植物から地域開発の多様性を検討する。